チクチクチクチク。

チクチクチクチク。

…またこの展開ですか?


「ユウジ。」

「何や。」


前の事が有ってか、返事だけはしてくれるようになったユウジ。

でも、肝心の顔は向けてくれない…彼女より裁縫、か、そうか。

別に裁縫に夢中になってるユウジは嫌じゃない、真剣に作ってる横顔は格好良いし、ユウジと一緒にいられるだけで幸せ、なのに。

私は満足して無い様な気がする、いや、ハッキリ云って満足して無い。


「…。」

「…。」


…今のユウジとの関係は好き、付かず離れずな感じで、でも私としてはもっと話したいし、会いたいし、くっつきたい、ユウジは、思わないのかな。

私はボスッとクッションに顔を埋めた。

付き合い始めは、まだ可愛げのあるカップルだったのになぁ、デートしたり、手繋いだり、喧嘩したり、初めてユウジと手繋いだ時は緊張したなぁ、二人とも真っ赤だったなぁ、初めて喧嘩した時は、1日楽しくなかったなぁ、そういえば、あの時はどっちから謝ったんだっけ…何時の間にか戻ってたんだよなぁ。

今じゃ見る影も無いって云うか、喧嘩する程話してない…此は大丈夫なんだろうか…。

堪らずクッションに顔を埋めたまま、ユウジに話し掛ける。


「ユウジ。」

「何や。」

「私達恋人なんだよね?」

「ぶっ!いきなり何言い出してんねん!」

「違う。」

「は?」

「私達はさ、恋人なんだよ?」


暫く静寂が流れるが先に沈黙を破ったのはユウジだった。


「…ま、そうやけど…其れがどうかしたんか?」


ユウジにとって恋人って云うのは『其れ』程度なんだ、勝手に思い上がってたのは私だけだったんだ。

目頭が熱くなるのが分かった。

駄目だ、ユウジの前で泣いたら、ユウジにウザがられる、そう思って私はクッションに更に顔を埋める。


「おい名前、そない顔埋めたら死ぬで。」

「…別に良い。」


少し声が震えたけど、多分気づかれて無い、そう思った。


「……泣いとんのか…?」


誤算だった、私は知ってた筈なのに、ユウジはモノマネが得意で、どんな些細な変化にも気付いてくる奴だって。

ユウジは云うが早いか、私からクッションを取り上げた。

ユウジと隔てる物がなくなった私は俯いたまま喋った。


「…ユウジは、不安にならないの?」


今まで寸前の所で踏みとどまっていた何かかが音をたてて崩れていく。


「私は何時も不安だよ。本当は、もっとユウジと話したいしっ、会いたいしっ、い…イチャイチャしたいのっ!でも、ユウジはそういうの苦手だから、私、ずっと我慢してたんだよ?だけど最近全然話さないし、話しても小春とかテニスの事ばっかり…せめて、せめて私といる時位、私の事見てよ…、」


私は一通り喋り終わり、俯いて頬を流れる泪を拭った。

するとユウジは、私の体を自分の方に向かせ、頬に手を添え、顔を上に向かせた。


しかし、私は中々ユウジの目を見ることが出来ない、そんな私にユウジは云う。


「名前。俺の目、見ぃ。」


そして、優しく話し始めた。


「前にも話した事有るんやけど、俺は名前とおるだけで楽しいんや。でも、名前は違う。俺と一緒におるだけじゃ足らへん。やから拗ねたんやろ?」


そのユウジの問いかけに私はゆっくりと首を縦に動かした。


「せやけど、俺もどうして良えんか分からんねん。」


私は伏せていた目をパッと開いて、ユウジ目を見ると、ユウジは少し驚いていたが、直ぐ照れた様な表情になった。


「俺は名前しか知らん。でも、名前は中々自分からは云わん。好きな事も、嫌いな事も。やから、もっと分からん。名前は、俺の事仰山知ってくれとんのに。けど、此れからは俺も名前の事もっと知りたい。名前の事なら知らん事なんか無いっちゅー位っ。名前が他の男に気ぃ取られんように。ちゅーか俺以外の男になんか渡さへんけどなっ!」


ユウジは真っ赤になりながら、それでも私が求めていた言葉を全部云ってくれて、私は何時の間にかユウジに抱き着いた。


「なっなななな!!?」

「ユウジごめんね。ユウジの事困らせたくなかったんだ。」

「…阿呆。俺は…名前の恋人やぞ。恋人何かは困らせてなんぼや。幾らでも困らせて良え。」

「…困らせ過ぎてユウジに嫌われるのは嫌。」

「ド阿呆。そないな事で嫌っとったらとうに別れとるわ。」


そう云うと、ユウジは私をぎゅっと抱き締めてくれて、其れが嬉しくて、私ももっとユウジにくっついた。


「ユウジ。」

「何や。」

「大好き。」

「…俺の方が大好きや。」


2011/04/07
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