何か足りない、何が足らない、回りに有って僕に無い、何が?
これといってやる事もなくて机に肘をついて溜め息一つ、太陽の柔らかい日差しで重たくなる瞼を閉じないようにする努力もせずにゆっくり目を閉じる。
しかし、昼休みだから皆がやがやわいわい、眠れない、あー、面白くない、何が面白くないのかも分からないから更に面白くない。
こう…何か足らない、それも分からないからもっとイライラ悪循環。
しょうがなく目を開けて窓の外を眺めながら五月蝿い回りの話に聞き耳をたてる。
「そしたら、リッ君が指輪プレゼントしてくれてん〜!」
「明日はカエデとデートやねんけど、どんな服着ていったら良えんやろ…!」
「サオリはホンマにタイチ君命やんなぁ。」
「アイは誰か好きな人とかおらへんのー?」
はいはい、リア充お幸せに。
あんまりにも聞くに耐えない話ばかりで眉間に皺が寄る。
こんな時は音楽、鞄からヘッドフォン取り出してウォークマンぽちぽちつついて好きな曲に設定、ノイズキャンセルもバッチリなのを確認して音楽を流す。
回りの声も聞こえない俺だけの世界の完成、さっきより断然気分が良い、音楽のお陰で今まで見ていた世界が色を変える。
何だか散歩に行きたい気分になってきた。
椅子から立ち上がってドアを開けて五月蝿い教室からさいなら。
軽快なBGMに俺の足も軽い、三年の教室も一年の教室も通り過ぎて辿り着いたのは一面青空の屋上。
俺はここが好き。
本当は立ち入り禁止だけども興味本意でこじ開けたらあっさり開いたドア。
世界なんて簡単に変えられるぜ、へっへー!って云われてるみたいで退屈な日々がほんの少しだけ楽しく感じる事が出来る場所だから。
今日も音楽ガンガンかけて何か曲でも作ろうかと思ったけど柵の近くに人らしき影。
そこの柵腐ってるから危ないんですけど、何て云う前に此方の気配に気が付いて振り向いた。
「あ…、ごめんなさい…!」
そう云って小走りで俺の横を通り過ぎる、その時に空気中でキラキラ光って消えていく雫。
俺はばっと振り返ってそいつを視界に捉える。
そいつが階段降りきって見えなくなっても俺は暫くそこから目が離せなかった。
何だこれ、走った訳でも階段上がるのに疲れた訳でもないのにどんどん早くなっていく心拍数。
タイミングよくヘッドフォンから流れてきたのは青臭い恋の曲で、訳が分からん、ウォークマン空気読めや、ちゅーか、今心臓が痛くなったのは今まで切ない曲を聞いていたからで別にときめいたとかそんな甘酸っぱいもんじゃない。
だったら、奥の方から沸き上がるこのモヤモヤした感情は、さっきまであった、あの足らない感じが無くなったのはどう説明すれば良いんだろうか。
少なくとも教室にいた奴等と同じもんだとは俺は信じたくないし信じない。
2012/03/08