僕達の日常は巡る。

生きて、死んでその先は何だろうね。

今日も何時もの時間になったら何時もみたいに窓の鍵開けて何時もみたいにあの子が来るのを何時もみたいに本を読みながら待つ。

鍵を開けてから暫くするとカツカツっちゅーてガラスを叩く音。

音に気付いてカーテンを開くと、そこには俺の待っていたあの子。


「名前、何っ時も云うとるけど開いとるんやから別にそんなんせんでも良えんやで。」

「一応礼儀。お邪魔します。」


そう云いながら此方に来ようと手を伸ばす名前。

その手をとって危なくないように誘導して無事に俺の部屋の窓を越えてベッドに降りる。

名前は小さく「ありがと。」と呟くとそのまま俺のベッドにダイブした。

俺は名前に布団を掛けて邪魔にならんようにベッドの端でまた本を読み始める。

名前がベッドに顔を埋めてから暫く経つと蚊が鳴いとるみたいなホンマに小さい声で名前は泣いた。

これが俺等の日常。

俺が本読んで名前が泣く。

人ん家来て何で泣くねんって思う奴が殆どやろうけど俺はそんなん気にせんし、泣きたいんやったら泣いたら良え精神やし、そもそも今の名前に泣くな云う方が俺には苦行や。

この前、名前の兄ちゃんが死んだ。

俺は名前の兄ちゃんとは殆ど面識あらへんからどんな人やったか記憶も曖昧やけど雰囲気とかは名前によう似とった人やった気がする。

男女の兄弟にしてはごっつ仲が良かったみたいで、よう構ってもらっててん!っちゅーて話を名前からも時々聞いとった。

名前の兄ちゃんの葬式に参列した時、参列した人やら親戚の人やらが殆ど帰っとる中、名前が寺の外に一人でおった。

不思議に思って声掛けたら名前はゆっくり振り返って俺を見てへらっと笑いながら、お兄ちゃん、死んじゃった、て云うた。

何で身内が死んだのに笑ってんねんって云おうと口を開いたら、さっきまで笑っとった名前の顔が段々引き攣って目には仰山泪浮かべとった。

そんな名前を見てられんくて駆け寄って抱き締めながら、俺がおったるから泣いて良え、て云うたらそれを合図に名前は俺にしがみついて大声で泣いた。

名前は泣きながらずっと"お兄ちゃん"て譫言みたいに云うから、大丈夫やで、って何が大丈夫なんか分からへんけどずっと云うたった。

それからは、名前が泣かんでも良うなるまで何も云わんと泣き場所になるって決めた。

クラスメイトに、白石、滅茶苦茶甘いやんけーっちゅーて云われたけど、せやったらお前は目の前で大切な奴が泣いとっても何にも思わんのやな、って返したらそいつは驚いたような顔した後、眉間に皺寄せてそのままどっか行った。

思えばそんな事もあったなーって考えながら時計を見ると、デジタルの時計は夜の9時を表示していた。

俺はもそもそと名前に近付いて布団をポンポンっと叩く。


「もうそろそろ帰らな、オカン心配するでー。」

「……ん、」


名前小さく返事し寝返りをうって俺を見る。

真ん丸い目は仰山泣いたのを物語り赤く腫れあがっとって、でも、今日は少しだけ眠たいのも入っとるらしく、ほんのりとろんとしとる。

そんな名前の頭を撫でながら笑ったら名前がぽつりと呟いた。


「泣いてる時ね、少しだけ寝てたんだけど夢見たんだ。」

「ふーん。何の夢やったん?」

「お兄ちゃんの夢。」


名前がそう云うた途端にぴたりと止まる俺の手。

俺があまりにも深刻そうな顔しとったせいか名前は、聞いても良いよ、って少しだけ笑う。

俺は、俺が聞く事で名前にまた傷が出来てしまうんやないかと思っとったけど本人がそう云うなら(それでも怖いんやけどな)恐る恐る聞いた。


「どんな夢やったん?」

「お兄ちゃんが笑ってんの。凄く幸せそうに。」


そう云う名前の顔がホンマに嬉しそうで少しだけ驚いとると、あっちで元気にやってるんだって、と体を起こしながら上を指して続けた。

俺は暫く固まっとったけど名前が帰ろうとしとるから窓を開ける。

名前は窓のさんに足を掛けて自分の部屋に戻る。

部屋に戻った名前は俺に向き直って独り言みたいに云うた。


「天国って凄く良い所なんだね。だってお兄ちゃん帰ってこないもん。」


名前は俺が何か云う前に「おやすみ。」っちゅーて窓を閉めた。

俺は閉められた窓をただただ見ていた。


2012/01/22
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