高い身長、ゴツゴツした手、中々開かない口。

私の興味の先は、何時でも貴方。


「知念君って寡黙だね。」


私がそう話し掛けると、知念君は読んでいた本から顔を上げて私を見た。


「そうか…?」

「うん。」


会話終了、大体何時もこんな感じ。

お互い深入りしない、友達未満恋人未満、要するに知人、よく話すクラスメイト、そんな微妙な関係。

回りの子は知念君の事、"よく分かんない"とか"不思議で不気味"とか云ってる。

其れは、只単にその子達が知念君の事を知ろうとして無いだけで、本当は、本当の知念君は、優しくて、凄く格好良くて、自分のお小遣いを蚊取り線香に使う何ていう、案外可愛い一面も有るのに。

兎に角、皆知念君の事知らなさ過ぎだと思います。

そんな事を暇なのでノートに書き出す。

私って本当に暇なんだな。

自分が気持ち悪いので、窓の外を眺めるけど、数分もすると飽きたので、今度は机に伏せることにした。

丁度私の席には太陽の優しい光が差し込んで、しかも今はお昼休憩で、眠るには最適な環境なのだ。

私は意識を手放した。

名字さん、名字さん。

遠くの方で聞こえる、この声は。


「名字さん。」

「…ぁ?」

「もう皆帰ったさー。名字さんも早く帰った方が良い。」

「……ぁー…あぁ、ハイ。」


…3時間、ぶっ続けで寝てしまった、誰か起こしてくれても良かったのに…いや、確かに知念君は起こしてくれたけども、そういう事じゃなくて。

私は鞄を持って、帰ろうとした。

が、一つだけ気になった事が有ったので、クルリと体を反転させ知念君の方に向き直した。


「何で、態々起こしに来てくれたの?」


知念君の眉毛が少しだけ動いた気がしたけど、少し間が空いたので、私は気にしなくて良いよ、と云ってまた体を反転させ、今度こそ帰ろうと歩き出した。

しかし、知念君が制服の裾を引っ張ったものだから私は少し後ろによろめいた。


「…何?」


また不思議な間が空く。


「私帰って良いんだよね?」

「俺が名字さんを起こしに来たのは、心配、だったから。」

「…、」

「…、」

「…そっか。」


沈黙を破ったのは私で、別に早く帰りたかったからとかじゃなくて、何もないあの間に耐えられなかっただけ。


「有り難う。んじゃ。」


私は別れの挨拶をした、けど、知念君はいっこうに裾を離してくれない。


「…まだ、何か聞いてほしいの?」


私がそう云うと、知念君は真っ直ぐに私を見て、ゆっくりと自分に言い聞かせる様に言葉を紡ぎだした。


「俺が、名字を起こしに来たのは、心配だったから、のと、俺は、名字さんの事、好き、だから、」

「…。」


あの知念君が、頬染めながら、私の事好きって。

私はあまりにも驚いて知念君をじーっと凝視した。

知念君は私の視線に耐えられなかったのか、顔を逸らす。


「知念君。」


私が知念君の名前を呼ぶと、知念君はばつが悪そうな顔で此方を見た。


「可愛いなぁ。」

「…は?」

「知念君、可愛い序でにもう一度、私の事好きって云って?」

あ、驚いてる。

知念君って案外表情豊かなんだ、何て考えつつ、知念君の言葉を待つ。

観念した知念君はまた少し照れながら云う、かと思うと今度は腕を引っ張られ、私は知念君の方に引き寄せられた。

そして、私の耳元であの魔法の呪文を呟いた。

あぁ、この消える事の無い魔法で、今日も私の興味の先は貴方だけ。


2011/04/07
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