そうやって僕等は守れない約束をする。
夜9時、寂れた公園には人がいない、しかし、ギィっと金具の軋む音が響く、そりゃ、ブランコに乗って漕いでたら軋む音するよね。
そんな風に考えながら隣にただ座っているだけのユウジに話し掛ける。
「ユウジー。」
「…何や。」
返事が遅い、今は話す気分じゃないみたい。
私はブランコを漕ぐのを止めて残った揺れにまかせて足を休めた。
それから暫く経って、おい、とユウジに声を掛けられた。
私はまだ少しだけ揺れているブランコを止めて、何?と返すけど、ユウジは何も云わない。
バンダナが作る薄い影がそれとなくユウジの表情を曖昧にする。
しかも今日は何時もより深くバンダナしてるから更に暗く感じた。
何か少しだけ寂しくなって私は誰に云うでもなくぽつりと呟いた。
「泣かないで。」
「泣いてへんわ。」
そう云いながらユウジは鼻を擦る。
私はユウジをぼーっと見た。
すると今度はユウジが口を開いた。
「あんまり遠くに行くな。」
「行かないよ。」
私にとってはユウジの方が遠くに感じるよ、声に出さずに吐き出す。
ユウジは私を見ずに続ける。
「俺より先に死ぬな。」
「そんなの分かんないよ。誰だって何時か死ぬんだから。」
お互いそこからは何も云わなくなった。
遠くの方で救急車のサイレンが聞こえる、そのサイレンの音が完全に聞こえなくなって暫くしてからユウジは寂しそうな悲しそうな微妙な表情で私に云った。
「笑え。」
「笑ってる。」
上手く笑えてはないと思うけど。
「傍におれ。」
「傍にいる。」
「死ぬな。」
「何時か死ぬよ。」
ギギッと金属の軋む音がしたかと思うと隣にいたユウジはいなくて。
気が付けば正面に来ているユウジは私の肩を掴んで頼むから…っ、と云って私が見てきた表情の中で一番辛そうな顔をした。
そんな顔しないでよ、死にたくなくなるじゃん、生きたくなるじゃん。
私は何時の間に零れてきたのかぽろぽろ流れる泪を両手で一生懸命拭った。
拭っても拭っても泪は止まらなくなって自分の服に濃い染みを作っていく。
その染みが暗闇のせいで血に見えた。
いや、実際血も混じっている、認めたくないだけ、泪だって信じたいだけ。
「死ぬなっ、」
「死なない、よ、」
嗚咽混じりになりながら云った。
私が明日にはいなくなるの知ってるくせに、守れない約束させないで欲しいよなぁ。
そんな事を思っていたら口内に溢れる血が口端を伝う、その血をユウジは泪目になりながらごしごしと乱暴に服の袖で拭う。
私は、大丈夫、と云ってユウジにゆっくりと抱き着いた、何の抵抗もせずただ抱き締められているユウジ。
何時もは嫌がって、離せや、阿呆っ!とか云うくせに。
「…何で、今日は嫌がらないの…っ!」
私はユウジの服を力一杯握りながら泣いた、ユウジも私の背中に手を回して痛い位抱き締めてくれた。
暫く泣いていたら、段々息をするのが苦しくなって口からはヒューヒューと情けない呼吸音しか出なくなった。
あんなに力一杯掴んでいたユウジの服を握る手も今じゃ添えているだけ。
ああ、私もとうとう死ぬんだなって思うと何だか肩の荷が下りた気がした。
ゆっくりと確実に霞んでいく視界に映るのは暗い空に光る大きな月と泪でぐちゃぐちゃになった顔で私の名前を呼ぶ君の姿。
ごめんね、約束守れなくて。
ありがとう、こんな私を愛してくれて。
意識の途切れた私を、君は泣きながら抱き締めた。
2011/11/30