「謙也、ハグしよハグー。」
「はいはい。」
「ぎゅーっ!」
「自分等、廊下で何してんねん。」
俺と名前がハグし合っとる所に白石が引いたような目を向けながら話し掛けてきた。
そんな顔する位なら話し掛けんかったら良えんに、って思いながら白石に顔を向ける。
俺が、只のスキンシップや、と答えようとしたら名前が満面の笑みで口を押さえてきてそれを遮った。
「仲良いでしょ。白石にも彼女いたらこんな風にいちゃいちゃ出来るのにねー。」
「余計なお世話や。ちゅーか人前でそないにいちゃつくな。」
「学校じゃハグは一回しかしてないもんね。」
そう云いながら名前はべーっと舌を出した。
白石はそれを見て「ホンマにこのバカップルだけはどうにもならんわ…。」と溜め息をつきながら何処かに行ってもうた。
残された俺と名前は顔を見合わせながら「ほな、結構遅いし俺等も帰ろか?」と名前に聞く。
名前は満面の笑みで頷いた。
やっぱり冬やから日が沈むのが早く最早光は弱いけど星が見える。
名前は真っ白いマフラーで鼻までしっかり隠す、時々息苦しいんか指でちょいっとマフラーを引っ張って息をする。
ほんのり赤い鼻が可愛えなぁとか思いながら見とると、名前が此方に気付いて首を傾げながら、何?と聞いてきた。
あー、ホンマ俺の彼女ごっつ可愛いんやけど。
はぐらかすように名前の頭をくしゃっと撫でると名前は納得がいかないような顔をしながらもふにゃっと笑った。
そんな顔は俺だけにしてくれれば良えんに、なんて事を頭の片隅で考えつつ、名前と他愛のない話をしながら歩いた。
「あ、家着いちゃった。」
「ホンマや。相変わらずあっという間やなー…。」
俺がボケーっと名前ん家を見ながら云うと「そうだね。」と名前も笑いながら返事をした。
「それじゃ、またね!」
「おん。」
右手を小さく振りながらドアを開けようとする。
何時もなら普通にバイバイ云うて家入るんやけど、何故か今日は中々家に入らん名前。
不思議に思って声掛けようとしたらぱたぱたと此方に向かって走ってきた。
何や忘れ物でもしたんやろか、とか思いながら、どないしたん?と話し掛けると同時にぎゅっと名前に抱き着かれた。
「え、あ、」
俺が呆気にとられて動揺しとるのを良いことに名前は少しだけ笑いながら顔を近付ける。
お互いの顔が目と鼻の先っちゅー位の至近距離で名前がぽつりと呟く。
「好きだよ。」
「っ、」
何時の間にか俺は名前の細い腰引き寄せてぎゅっと抱き締めていた。
俺は悪ない、可愛え名前が悪いんやで。
鼻腔を擽る名前の髪の匂いに目を細めて、また少しだけ抱き締める力を強くすれば名前は「苦しいよ。」と云いながら俺の背中に手を回す。
幸せってこんな感じの事を云うんかなとか何となく思った。
2012/01/19