うん、やっぱり関西弁は格好良い。
「という事で、財前。」
「お先に失礼します。」
私が後輩である財前の前に立ち話し掛けるが財前は面倒臭そうに私を避けて帰ろうとしたので、ちょ、何帰ろうとしてんの、と引き留めた。
袖を引っ張れば心底嫌そうな顔を此方に向ける財前、え、私そこまで嫌われてんの?
「俺、名前さんみたいに暇やないんで。」
「可愛い先輩の頼み位聞きなさいなっ!」
「え、何処?」
「辺りを見回すな、前見ろ。」
「何や…、」
「あのさ、そんな凄く残念みたいな顔やめて。かなり傷付く。」
そう云うと財前は「え、」と心底驚いたように目を見開いた、私って財前の中でどんな扱いされてんだろう。
「まぁ、話位は聞いてよ。」
「話だけな。」
「…うん、うん。話だけ、ね…。」
「で、何ですか。」
「そう。私ってさ標準語じゃん?だから方言とかに凄く憧れてるんだよね!特に関西弁!」
そう財前に嬉々として伝えると財前は「方言なんかそない憧れるモンか?」と意味が分からないみたいな表情をしながら返す。
確かに、常日頃から方言使ってるとその格好良さが分からないって思うのも分かる、けど、私は日常的に方言を使わない人間だから憧れ意識が植え付いたんだろうなぁ…。
と自己解決していたら財前は「つまらんので帰りますわ。」と云いながら私の横を通り過ぎようとするが制服の裾を引っ張って引き留める。
「話だけ云うたやん。名前さんしつこい。」
「そんなに時間はとりませんからっ!」
「訪問販売員か。」
財前は私の頭を掴んで、ぐっと遠ざけた、私先輩なのにこの扱いは何なの、けど、めげてなるものかと私はしつこく財前に云い寄った。
すると財前は、ホンマキモいわ、って云いながら本気で気持ち悪がり始めた。
しかしめげずに、そこをなんとかっ!と説得したら財前は眉間に皺をこれでもかって程寄せながら、善哉一ヶ月分、と云って私を見る。
「いや、一ヶ月とかどう考えても無理でしょ。」
「ほなら、この話はなかったっちゅー事で。」
「〜っ!分かりました、一ヶ月分頑張りますからー!」
「…っと。今の録音したんで後から無しっちゅーのは無理やで。」
ポケットから携帯を取り出して不敵に笑う財前。
私は盛大に溜め息をつきながらも、何から教えてくれるの?と聞いてみたら、財前は少しだけ考えて何か思い付いたのか、あ、と声を漏らして私を見た。
「ほなら"せやな"の練習しますか。」
「あ、良いかも!それでどうするの?」
「まぁ、簡単に云うと俺が話し掛けるから全部"せやな"で答えるっちゅーつまらんやつや。」
「成る程…!」
「面倒なんで歩きながらしますよ。」
財前は、本当面倒臭そうにポケットに手を入れたまま話し掛ける。
私は嬉々として全部"せやな"で返す!と意気込み、財前の話を聞く。
「良い天気やな。」
「せやな!」
「相変わらず購買が混んどってパン買うのに時間掛かったわ。」
「せやな!」
「今日も部長が気持ち悪かったわ。」
「ホンマそれ!」
「?」
暫く歩きながら"せやな"の練習が続き5分位経って、財前が、これで最後やで、と云った。
「面白いので頼むよ。」
「知らんわ。ほな、云いますよ。」
「ん、」
私がそう云うと財前は一瞬だけ真顔になった。
「名前さん、俺の事好きやろ。」
「せ…、は、ぇ…?」
「何やねん、早答えて下さい。」
数秒間だけ固まる体に対して完全に動く事を止めた頭。
私が立ち止まっても財前は振り返らず歩き続ける、少しだけ慌てて隣に行っても財前は私に視線を向けずに歩く。
何か云おうと少しだけ財前を盗み見ると、オレンジ色の夕日のせいなのか、はたまた私の自意識過剰なのかカラフルなピアスの付いている財前の耳が赤く染まっていた。
「…財前、」
「…、」
「今のってさ、」
「何やねん、名前さん何っ時も気持ち悪い位自意識過剰なんに何で"私告白された?ヤバイヤバイ!白石に報告しよ!"とか云わへんねん。ホンマ空気読めん先輩やマジ面倒臭いちゅーかウザいっすわ。」
私が云おうとしていた言葉を遮り破裂した風船みたいに一気に喋る財前。
呆気にとられていると最後にトドメの如く、何か云えや、と云いながら財前が振り返った。
「…顔、赤。」
「誰のせいやド阿呆。」
「…これって自意識過剰のステータス発動して良いの?」
「今発動せんで何時発動する気やねん。」
ほんの少しだけ拗ねたように返す財前に段々と頬が緩んでいく、多分、私も、今財前に負けない位顔赤いと思う。
何て事を思ってると踵を返して歩き出す財前、私も急いで走って追い付いた序でに財前の制服の袖を掴んだ。
吃驚した顔で私を見る財前に、じゃあさ、とにこにこ笑いながら話し掛ける。
「財前は私の事好きやろ?」
そう聞くと、聞け云うたのはそっちやろ、とか、一々云わすなや、とかぼやいた後、小さく、せやな、と声が聞こえた。
それと同時に右手が暖かくなった。
2011/01/08