君が俺の名前呼んで、何かと思うて振り返る。
そしたら、この花綺麗だね!笑いながら云う。
俺も笑いながら、綺麗やなぁ、って返す。
今日は日差しが暖かい。
名前はその花を暫く見詰めてまたぽつりと、綺麗、と呟いた。
そして、その隣に咲いていた花を見付けて、あ、此方も綺麗!って少しだけ興奮気味に云う。
俺はそんな名前の小さな背中を見ながら笑った、何や、名前見とったら彼女やのうて子供と遊んどるみたいやな。
そう思いながら次々に花を見付け、てけてけ歩いていく名前に付いていく。
名前はまた新しい花を見付けたんか「蔵、来て来て!」と顔は向けずに手をちょいちょいって動かして俺を呼ぶ。
俺が、座っている名前の横に行くと名前は嬉々として花を指差す。
「見て、可愛い。」
名前が指差す先には赤、白、黄と色鮮やかな花が咲いていて、俺は、せやな、と返事をした。
そんな俺に名前は楽しそうに話す。
「この花はね、プリムラっていう花なんだよ。今は赤、白、黄しか無いけど他にも薄紫と青があるんだー。」
「ふーん。名前結構詳しいんやな。」
俺がそう云いながら名前の頭にぽんっと手を置いたら名前は顔をあげてへらっと笑った。
「蔵の毒草の知識ほどじゃないけどね。」
「十分や。」
そう誉めると「やったねっ!」って云いながらまた花を凝視しだした。
俺も暫く見とったけど名前が話し出して名前に顔を向ける。
「そういえば、蔵は花知ってる?」
「せやな…。毒持っとる花は完璧やけど普通の花はそこまでは知らへんわ。」
「よしっ!じゃあどっちが沢山花の名前云えるか勝負しよ!」
「あれ、俺の話聞いとった?」
俺が苦笑いしながら云うても名前は完全にその気になってしもうとる、この名前を止めるのも至難の技やし俺は大人しくその話に乗った。
「じゃあ私からねー。椿っ!」
「せやな…、鈴蘭。」
「山茶花。」
「菫。」
「向日葵。」
それからお互い花の名前をつらつら云い合った。
暫くしたら俺の方が思い付かんくなってしもうた。
しょうがなく、もう思い付かへんわ、って云うたら名前はつまらなさそうに、えー、もう?と頬を膨らませる。
「しゃーないやん、俺そんなに知らへんのやし。」
「…うーん、まいっか。」
名前はもうちょっとやりたかったみたいやけど肝心の俺が分からへんから諦めてまた他の花を探し出す。
俺はそんな名前の横に座り込み独り言みたいに云うた。
「確かに花の名前やったら名前に負けてまうけど、俺にはもっと好きで大切な花があんねん。」
「ふーん。何?仏の座とか?」
「何でこのタイミングで仏の座やねん。」
「まぁ良いじゃないの。で、蔵のお気に入りの花は何なの?」
名前は小首を傾げながら聞いてくるから、俺はゆっくりと聞く。
「知りたい?」
「知りたい!」
「じゃあ、俺が今からヒント出すから名前当ててな。」
「よし、こいっ!」
名前は小さく拳を作って身構える、そんな名前を可愛いなぁ思いながらヒントを出した。
「その花はな、俺よりちょっと小そうて、まぁ色はその時々によるわ。それでな、その花の一番可愛え所は一杯愛情注いでやったら可愛らしく笑うねん。それで、撫でたると照れるんやけど嬉しそうにまた笑うんや。」
「……何それ…、聞いた事無いんだけど…。というか蔵より少し小さいってでかくない?」
名前はそう云って軽く溜め息をついて、分かんないから良いっ、云うてスタスタ歩いていく。
俺はそんな名前の背中を見ながら少しだけ笑って追い掛けて、追い付くと名前の左手を軽く掴む。
それで、花も好きやけど、名前は比べ物にならへん位好きやで、って云うてみたら、名前は真っ赤になりながらも眉下げて恥ずかしそうに笑う。
ほら、咲いた、俺の一番愛しい花。
2011/11/27