「名前ーっ!ポッキーゲームしよ!」
「は?」
地味に部員のタオルを畳んでいる私に嬉々として近寄ってきた白石。
その手に持っていたのは新発売らしいポッキー、私は瞬時に意味を理解し白石を冷たくいなす。
「嫌、無茶、無理、不可能。」
「ぶーぶー!何やねん、何がアカンねん。」
「敢えて云うなら、そうだね…存在、かな。」
「もしかして俺、遠回しに消えろって云われとる?」
返事をしない私に白石は、返事してーなー!と云いながら何故か抱き着いてきたから、適当にアッパーを食らわせてまた作業を開始した、白石は倒れたまま泣き真似をしているが無視しよう。
黙々とタオルを畳んでいると隣に何時の間に来ていたのか小春がすとん、と座り話し掛けてきた。
「名前ちゃん、何楽しそうな事しとんの〜?」
「冗談きついよ小春…。私の顔見て。今きっと死んでるから。」
「な、何やて!?名前、死にそうなん!?せやったらマウストゥマウスを「止めろ。」マウストゥマ「止めろ。」マウ「もう一度云ったらあんたの息子を一生使えないようにする。」ごめんなさい。」
何なんだろう、白石、最近ウザさ増してない?
私が溜め息をつきながら小春に向き直り、楽しそうに見えないでしょっていう顔をした。
しかし、小春は、やっぱり楽しそうやわぁ、と笑いながら云う。
小春の楽しい基準が分からないよ、そう思いながらも私はまたタオルを畳み出す。
小春も畳む作業をを手伝いつつ、ポッキーゲーム位やったりや〜と私に云ってきた。
本当何処から聞いていたのか心底気になったけど敢えて受け流し、嫌だよ気持ち悪い、とだけ云って手を止める。
「名前ちゃんは蔵りんの何がアカンの?」
「段々近付いてくるドヤ顔に耐えられなさそう。」
「何で!?自分で云うのも何やけど俺、結構イケメンやで?」
「あ〜…。こういう事やな〜…。」
「小春まで…、」
小春にも冷たい視線を送られ白石はきのこを生やしながら隅で"の"の字を書いている。
流石にやり過ぎたかなとか思うけど慰める気はない、だって、同情すると白石は直ぐ調子に乗るし。
暫く放置していると、白石はあからさまに"話し掛けて慰めたりしても良えんやで"オーラを醸し出して私を見る。
正直、本当にウザいと思ったけどこのまま放置しっ放しなのも限りなくウザいのでしょうがなく白石に話し掛けた。
「白石、早く皆と一緒に練習してくれば?」
「名前が俺とポッキーゲームしてくれるんやったら頑張る。」
「うぜぇ…。」
「ああ。うちも久しゅうこないにじめじめした人間見たわ。」
「なーなー!しようや、ポッキーゲームー!」
白石はまるで駄々っ子のように私の腕を掴みぐいぐいと引っ張る、止めろ伸びる。
私は大きな溜め息をつきながら小春を横目で見た。
小春は、諦めといた方が利口やで…と口パクで云う。
…しょうがない。
「一回したら気が済むんでしょ?」
「え、ホンマにやってくれるん?」
「一回だけだからね。」
「さっきまでドヤ顔キモいとかウザいとか最終的に消えろとか云っとったのに?」
「うん。放置しとく方がよっぽどウザったいしね。」
私が無表情のままそう云うと白石は心底嬉しそうにガッツポーズをしてポッキーを取り出す。
そして片方を銜え、名前もはよふはへへーな、と云ってきて、私はあからさまに嫌そうな顔をしつつも反対の端を軽く噛んだ。
「ほな、ゲームスタートっ!」
何やかんやでノリノリの小春を尻目に、私はゆっくりかしかしと本当に少しずつ食べる、一方の白石は結構ぽりぽり食べてきている。
残り5p、4p、3p…。
いい加減折っとかないとマジでちゅーしてしまう、そう思い顔を少しだけそらそうとすると、ぴとっと何かが触れた。
白石に此方がポッキーを折ろうとしているのがバレないようチラッと横目で確認した。
そこには何故か白石の指が添えられていた、いや、何で?
私が呆気にとられていると白石の背後に小春がいるのが見えた。
最早嫌な予感しかしない。
私は小春に"何もしないでくれ"と本気で祈ったが、そんな祈りも虚しく小春は動き出す。
「もう、早うちゅーせんかいっ!」
「え、こは、っ!」
「ぎゃっ!」
小春は自分が白石の背中を押してあわよくばちゅー!何て展開を予想(希望かも知れない)していたみたいだけど、現実はそんなに甘くなかった、漫画だったら、押されれば簡単に口と口でちゅーしちゃったりするけど私と白石の場合、口ではなく額と額が勢いよく衝突。
私は静かに額を押さえて悶絶して、白石はあまりの痛さに床をごろごろと無言で転げ回っていた。
小春は、名前ちゃん、堪忍っ!ちょっとした出来心やったんやけど…おでこ大丈夫?と聞いてきたので(白石は一瞥もされなかった)私は、別に、大丈夫だよ…と力なく返した。
私、週末に何やってんだろ、そんな事を考えながら床で仰向けになり死んだようにピクリとも動かない白石に油性マジックで髭を書いた。
2011/11/11