「名前さん。」

「何?」

「めっちゃ好きです。」

「…は?」


目の前には顔を会わせれば毒しか吐かない生意気な後輩、財前、その財前の前には何時も財前に貶され心が折れそうな私。

あまりに急な展開に頭がついていかない。

整理すると、私が白石達と話をしている間に割って入ってきたと思ったら急にさっきの言葉を云ってきた、要するにどういう状況?

私は取り敢えず後ろを振り返った。

もしかしたら私の後ろにいる人に云ったのかも…しかし、私の後ろにいたのはクラスメイトの男子達だった。

いや、まさか財前そっちの気が有るんじゃ…私は恐る恐る目の前にいる財前に問い掛ける。


「今の、私の…後ろの男子に、云った、の?」

「そんな訳無いやろ気色悪い。」


ひきつる笑顔で聞いたら財前は即否定してきた。

じゃあ、一体誰に…私じゃない、絶対私じゃない、期待なんかしないんだから、この前白石にこれで散々遊ばれたんだから、白石の奴、財前にまで教えたな…財前がいなくなったら一発殴ってやる。

とか何とか一人で考えてたら、ふっと視界が薄暗くなって、ぱっと顔をあげると、かなりの至近距離に財前の顔があった。


「ぎゃあっ!」

「ぎゃあって何やねん。もっと可愛らしい声出せや。」


元はいきなり近付いてきたあんたのせいでしょうがっ!って云おうと私が口を開く前に財前が遮る。


「せやけど、そんなとこも好きっすわ。」

「な、…は、ちょ…、」


そう云いながら少しだけふにゃっと笑って見せる財前、何で、そんな顔するの。

そのせいで私が一人で吃っているのを気にせず財前はどんどん顔を近付けてくる。

近い近い近い!今、心臓爆発しそうな位早く打って死んじゃいそう。

とうとうお互いの顔が目と鼻の先程に近付く、その至近距離で財前は私に諭すように云う。


「名前さん、めっちゃ好きや。部長等何かと仲良くせんとって…。俺ん事だけ見とって欲しい。俺ん事だけ考えて欲しい。」

「財、前…。」

「俺ん事だけ好きでおって欲しい。……アカン?」


そんなの、


「駄目…、じゃ…ぅっ、」

急に地面が揺れたかと思って顔をあげると、そこには何時もの教室に何時もの風景に何時もの自分の机。


「あー…夢、か…、」

「夢って何スか。」

「ぎゃあっ!」


私が小さく息を吐いて安心していると何処から現れたのか財前が私の横にひょいっと顔を覗かせた。

うわあ、さっきの夢のせいで変に財前意識して直視出来ないんだけど。

兎に角、今は白石を殴りたい気分だから白石殴りに行こう、そう思い立って机にガツガツ当たりながら立ち上がって(動揺してるからじゃないし!)財前の横を通り過ぎようとした。

すると、左手をぐいっ掴まれる。

勿論相手は財前で、私は直視出来ないから、顔の方向はそのままに財前に、離してよ、と短く云った、しかし、財前からは何も返ってこない。

いい加減本当に心臓爆発して死んじゃいそうだから離して欲しい、そんな事を考えてると財前はさらっと云った。


「何処にも行かんとって。」

「っ!」


私は驚いて財前の方に振り返り何かを云おうとしたけど、口をパクパクさせるだけで肝心の言葉が出てこない。

そんな私を見て、財前は満足そうに、何赤くなってんねん、と云ってすっと手を離した。

私はそれを合図に一目散に教室から逃げ出した。

うん、白石ぶん殴る、そう心に決めて廊下を走ってたら運良く白石を見付けたので、その勢いのままラリアット喰らわしてやった。


(何や財前。また来たんか)
(…っす。)
(名前なら寝とるで)
(そら好都合っすわ)
(は?)
(…すぅ)
(名前さんは財前光がめっちゃ好き。名前さんは財前光がめっちゃ好き。ぎゅーしたりちゅーしたい)
(…何してんねん、財前)
(別に。名前さん頭弱いから睡眠学習してるだけっすわ)
((財前…最早それは睡眠やのおて催眠や…))


2011/11/07
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