世界で一番大事な人がいなくなっても日々は続いてく。
雨がぽつりぽつりと降る中、俺は傘もささずに歩いとった。
別に、家出る時に忘れたとかそういうのやない、只、雨に打たれたかっただけ。
家を出て数分位で深目の水溜まりふんずけたおかげでスニーカーがぐじゃぐじゃになったけど気にしいひん。
だんだん雨が強うなって、着とるシャツが水を吸って何となく重たく感じる。
「寒…、」
俺は少しだけ寒さを感じて、丁度手頃に雨宿り出来る屋根を見付けてのろのろと覚束無い足取りで其処に向かった。
体に雨が当たらなくなった分、時折吹く風が妙に寒い。
俺は改めて、寒い、と口に出して云ってみた。
すると隣から、寒いね、と聞こえてきた。
驚いてばっ、と振り返っても其処には誰もおらんかった。
あいつがおる訳無いのに、あいつの声が聞こえた、幻聴まで聞こえてまうとか俺かなり末期やん。
小さく溜め息つきながら髪の毛をくしゃっと乱した。
服も少しだけ絞る、服を絞りながらぼーっと色んな事を考えた。
俺が、寒い、云うたら、あいつは、寒いね、ゆうて返す。
あれは幸せやったんやろな。
あまりにも自分の柄じゃ無さ過ぎて少しだけ笑えた。
それから少ししてから俺はまた歩き出した、相変わらず雨は強いままや、何や、雨に濡れたら今までの事全部洗い流されたら良えのに。
せやけどもし、あいつとの記憶を全部消せたとして"それ"はもう俺やない、何故かちくりと心臓が痛んだ。
俺は胸を軽く押さえながら歩く、雨はさっきより強くなった。
「俺の半分は、あんたで出来とった。」
気が付けば俺は一人で何か云っとった、雨の音で自分でも殆ど聞き取れんかったけど。
「あんたの半分も俺で出来とった、か…?」
やっぱり雨は何にも流してくれへん、唯一、今流してくれとるのは情けない顔で泣いとる俺の泪だけや。
俺はあまりの心臓の痛さにその場に膝をついた。
今までこないな痛みは感じた事が無い、只、何となく理由は分かる気がした。
今までは、全部あんたと半分やったから。
せやけど今は、一人、やから、こんなに痛いのも、泪が出るのも、仕方無い事なんやろ。
2011/10/30
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思い出せなくなるその日まで