帰り道、私の影が伸びる、自分にずっとくっついてくる。

其れが面白くて少しフラフラ歩いていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「名前、そないフラフラしてたら転けるで。」


私はその声を聞いて振り返る。

気持ち悪い位整った顔と、左手に巻かれた包帯、四天王寺中テニス部部長、白石蔵ノ介だ。

白石は女の子の一人歩きは危ないでー、とか云いながら私の隣に並んで歩く。


「折角やから、一緒に帰ろうや。」


何が折角なのか分からないけど、別に急ぐ事も無いので白石と一緒に帰る事にした。

白石は、何かにつけて私に構ってくる。

その行為が嫌な訳では無い。

只、時々思うのは、何で私なんだろうという事。

例え回りに他の子がいても、白石は何時も私の所に来る、しかも、最近名前で呼んで来る様にもなった、これに関しては迷惑極まりない。

白石は文武両道で、まぁそこそこ格好良い、だから女子からもかなりモテる。しかし。

私みたいな平凡な人間に構って、しかも、名前で呼ぶなんて、白石の事が好きな女子から体に穴が開きそうな位、痛い視線を浴びせられる。

白石はその事を知ってか知らずか、変わらず私に構ってくる。

…この男の何処が良いのか。

私は白石の顔を凝視する。


「…俺の顔に何かついてる?」


白石のその発言でハッと我に帰り、顔を逸らす…吃驚した!

何故か急に体が熱くなって、私は少しでも誤魔化そうと、セーターの裾で頬を擦った。


「…。」


さっきまで喋ってた白石が黙ったので、何か有ったのかと顔を上げ様とした瞬間。


「ぬわぁっ!?」


通常では無い生暖かい風が耳にかかって、其れが白石のものだと分かると、先程殆ど引いていた熱が戻ってきた。


「な、な、ななな…!」


私は言葉としてなし得ていない声を出す。

肝心の白石は


「やっぱり名前は良え反応するなー。」


とか何とか凄い笑顔で云っている。

私は更に体が熱くなっていくのが分かった。

恥ずかしさを紛らわすために少し強く白石に云う。


「私に構うのは白石の勝手だけど、私に迷惑掛けないでよっ!」

「迷惑?」


白石は私の言葉を繰り返すと少し驚いた様な顔をした。


「名前は俺の事、迷惑や、思ってんねや…。」


そう云うと白石は困った様な、悲しい様な微妙な顔をした。

そして私の頭をポンッと軽く叩いたかと思うと


「じゃあ、俺嫌われとるみたいやから帰るわ。」


また明日な、と云いながら白石は私に背を向けて歩いて行く。

急激な展開に頭がついていかない。

それでも何故かチクチクと痛む胸、締め付けられる心臓。


私は何時の間にか走りだし、白石の学生服を掴んだ。


「…何?」


此方を見ずに白石は喋った。

今、白石がどんな表情か分からないけど私は話し始める。


「…勘違いしないでくれる?
私は『迷惑』って云ったんだよ。誰も『嫌い』何て云ってない。」

微妙な空気が流れる中、耐えられずに口を開く。


「〜ッて事、だからッ。」


そう云って私が立ち去ろうとすると、白石は急に振り返り私の肩をガッと掴んできた。

そして、真剣な顔で言葉を紡ぎだした。


「せやったら、好き…?」


あ、こういう事か。

こうやって白石を、好きになるんだ。


2011/04/07
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