逢えない夜を越えて



ポストに入った手紙を開けようか、開けまいか。
手の中で持て遊びながら結局手紙を抱えたまま、部屋の窓辺に座って早朝の空を眺めた…。

この海すら越えた広い空の先に君が帰ってから何週間経つのかな?


机の上に溜まっていく同じ宛名の手紙たち…

受信ボックスばかり同じ名前で、送信ボックスは空っぽ。

なんでって、返信してないからに決まってるでしょ…なんで僕が…



最近、自分でもおかしいってわかってるよ。

鳴らない電話を眺めてみたり…
太陽の光に、金色の髪を思い浮かべてみたり…

声が聞きたいとか…


とにかく僕はおかしい…
君に逢うまでは…
独りでいることだって楽しんできたのに…――


声が聞きたいなら電話すればいいんだけど…
なんで、僕から…


「はぁ…」


意を決して携帯ボタンを押した。
別に声が聞きたいわけじゃない…
君がいつも電話しろってうるさいから、かけてあげるだけだから!




………。
なかなか出ないから、…って言ってもまだ3コールだけど、切ってやろうと思ったとき…。

『きょ、きょ、きょ、きょーやぁ!!?』
「…」


やっぱり切ればよかった。それくらい情けない声に本気でそう思った…。


「僕はそんな変な名前じゃないよ…」
『わ、悪かったって!だってよ…恭弥が、で、電話!!』
「意味わかんない…」


そんなに僕からの電話が珍しいわけ??
まぁ、ほとんどしたことないけど…。

『どうしたんだ、急に?』
「何、僕から電話したら悪いわけ??」
『ち、違っ!!悪くない!絶対!断じて!』


必死に弁解する様子が目に見えて、自分でもしらない内に笑みが零れてしまう…

『学校は?朝だろそっち』
「今日日曜日なんだけど」
休みでも風紀の仕事がある…けど、今日は君と話すために遅刻とは、絶対言ってやらない…


「そっちこそ仕事終わったの?」
『ああ!ちょこちょこっと片付けてきたぜ!』
いつもの明るい声だけど、わかるよ、何かあったなって…
だって、そうそう仕事をしてるんだから…

そういうとき、ムダに明るくなるんだよね。

無理しなくていいのに…

と、思っても口にはしない…そのかわり…。


「じゃあ早く戻ってきなよ…」
『え?…』
「もう来ないならいいけど…」
『行く!行きます!明日には絶対!絶対逢いに行くから!!』
「そう…」

僕は短く返事をしただけで、でも本当に明日までに来なかったら咬み殺すから…。


『恭弥…』
「何?」
『Ti amo…grazie…』



心地よい声が、受話器の奥で囁く…

何がありがとうなのさ…
僕はまだ何もしてない…


だから早く戻ってきなよね…
どんな表情(かお)で僕の前に現れたとしても、微笑って許してあげるから…。


君に出逢って、独りじゃないことを知った僕は、君を受け止められるくらい強くなる。


そう決めたんだから…。




END
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