哀しくも、愛しい雫は、
優しさは身を滅ぼす…
なんて、陳腐な言葉は貴方のためにあるんじゃないかと思うんだ…
「貴方、何て顔してるわけ?…」
「大人ってのは、そう簡単に泣けねえんだ」
そんな声で言われてもね。
「面倒な生き物だね」
と、僕は言うと思う…
10年前ならね。
「可笑しなプライド…」
ボスの威厳って言うのか…
いや、少なくともウチのボスはそうではないけど。
自分に正直だから。
「わからないな…」
僕には、彼ほど多くの部下はいない。
上に立つものとして周りに示しをつける為にも数は多い方がいいんだろうけど、体裁を取り繕ってやるほど僕は常識的ではないし、何より群れるのは死ぬ程嫌いだ。
少数精鋭でいい。
それが、信頼と絆の深さに繋がると考えるかもしれないが、そうとも言えない。
勿論、部下が死んで露ほども心動かないわけではないけれど…
「欠けてるだ…僕には、そういうの…」
必要ではなかったから…
「恭弥らしいな…」
苦笑して言う貴方を、僕は、気付かないところで羨んでいるのかもしれない…
誰かの為に心を痛めて…
誰かの為に感情を露にする。
「貴方は…人らしいね…」
それ故に愛おしい。
「なんだそれ?恭弥だってそうだろ?」
「僕は、どうかな…」
わからないよ。貴方の様に"心"が泣いたりしないもの。
「人らしいから、オレに泣けって言えるじゃないのか?あれ、一応心配してくれたんだろ」
「都合のいい捉え方だ」
「ったく、可愛くねえなぁ…もっとこう、単純に…」
「単純なら、泣いてしまうのなんて簡単だろ」
「え?…」
僕の手が彼にそっと触れる。
そうすれば、金色の瞳から瞳と同じ綺麗な雫が流れた。
それは、躊躇うことも恥じることもない綺麗なキレイな雫。
もっと素直にそうすればいいんだよ。
でも…
「うん、まぁいいか…」
「何がだ?」
「別に」
これは、何というんだろ…わからないんだけど、貴方がそうやって、哀しみも素直に表現するのは、僕の前だけでいい…そう思う。
瞳にたまった雫にそっと唇を寄せてみる。
(哀しくも、愛しい雫は、)
貴方の為に喪われた、誰かの血の味がする…。
END