庭球 | ナノ
 


「名前、ちょっと話あんねんけど…ええか?」

部活が終わって皆が片付けをしている中、白石に呼び止められた。

 『別にえーよ?』

マネの仕事はひと段落終わっていたところだったから。
あたしがそう言うと、白石は部室の裏まであたしを連れて行った。

 『どしたん、白石ー?』

 「名前は明日暇か?」

 『はへ?』

部活のことかと思いきや、全然違うことを聞かれたので、あたしは拍子抜けた声が出た。
明日は普通に土曜日で、たしか部活はなかった。

 『暇…やなぁ…』

毎日部活があるから、たまには休みが欲しいなーとは思っていたが、部活がなかったある日、あたしは死ぬほど暇だったことを思い出した。

 「せやったら、ちょっと遠いねんけど、最近できた植物園行かへん?」


最近出来た植物園って、あれか、テレビでしてたとこかな…?

 『テレビでよーしてるとこ?』

 「そうそこ!そこやねんけど…いけるか?」

 『いーよ!暇よりましや!』

 「本間か!?じゃぁ、明日駅に9時来てな!」


白石は笑顔でそう言うと、着替えてくるわ。と言って去っていった。


なんで白石はあたしを誘ってくれたんやろ…
え?だってこれデートやろ?
もしかしてこれって…ちょっとは白石があたしのこと気に掛けてくれてるんかな?
でも、そんなこと考えたら自意識過剰っぽいしなぁ…!
デート違うよな!
友達として誘ってくれた!
うん!そうや!

あたしはそんなことを考えながら、そのまま帰った。



『あーやばい!デートちゃうのにデートやと思うわ!』

家で明日の服を選びながら、自然に顔に出てくるニヤケを押さえられなかった。

『でもまぁ…デートって言うふうにとってもええよな!』


好きな人からどこか行こうって誘いだし、自分の内心だけでも…


『あーでも、白石は…あたしのことどう思ってるんやろ…』


誘ってくれたことは嬉しいが、それがどういう気持ちなんかまったく知らんし、分からん。
せやけど…


 『一緒に出かけられる!それだけでいーや!』


ただ単純にそう思った。

 

次の日――


なかなか着ないとっておきのワンピースを着て、駅まで行った。
10分前やのに、すでに白石は居った。

「おはよ」

あたしを見つけるなり笑顔で挨拶してくれる白石。

『おはよ。ってか…早いな…』

「さっき来たとこやから、別に気にせんでええよ。それに、女の子は待たせたらあかんの。」

そう言って白石は駅のホームへ向かおうとする。
とっさにあたしは白石の服のすそを掴む。

「どしたん?」

ビックリした表情であたしを見る白石。
…何やってんだ自分!


『えっと、その、なんか…白石歩くの早そうだったから!』


あーどこ見て言えばいいのか分からない!
斜め下を見ながらあたしは言った。

「そうか?じゃぁ、手繋ぐ?」

『…ええっ!?』

手?手?手?
手を繋ぐって言ったよね?
え、聞き間違いじゃないよね!?

「嫌やったらえーけど?」

『嫌じゃない!』

即答した。
白石はまたビックリした表情であたしを見る。
も−完璧に自分変な子だよね
また視線のやり場に困ったあたしは、ただ俯くだけだった。

「顔あげぇや、名前」

あたしの顔をがしっと持って前に向ける。
白石の顔があたしの目の前にある。

「はい、手」

そう言ってあたしの左手を取り、白石自信の右手と繋ぐ。
右手はいつも巻いてる包帯はなく、白石自信の大きな手だと確信した。


「行くで?」


そう言って、再度歩きはじめる。
白石はめっちゃ優しい。
普通の人やったら、こんなことせーへんもん
そーゆーとこめっちゃ好きやな〜…
あたしは自然と笑顔になる



電車に揺られるこ45分でようやく目的地に着いた。


『おー以外に駅からめっちゃ近いやん!』

「せやなぁ〜!」


白石もあたしも植物園の大きさにビックリする。
入り口は沢山カップルが居る。


『カップル多いな』

「せやな」

『皆幸せそうやな〜』

「名前は幸せちゃうんか?」

『いんや?幸せやけど、幸せやない。』


一緒に居って、遊びに来てるだけでめっちゃ嬉しいけど、ただ付き合ってないってことが問題やな。


「名前は言っとること矛盾しとるわ」


苦笑した表情を見せる白石。
つられてあたしも苦笑する。
入り口で入場料を払っていく人々。
あたしもそんな人々にまぎれて入場料を払おうとする。


「名前は入場料出したらあかんでー」


あたしの後ろに居った白石が、そう言って入場料2人分を払った。


『な、なんで?払うって!』

「えーねん、えーねん、俺が我が儘ゆーて付いて来てもらってるだけやしな。」


そう言いながら笑う白石。

早速、植物の方に歩いていく。
あたしはそれに付いて行きながら、

『あかんって!』


入場料払ってもらったことをまだ続ける。


「なんでや?」

『こんなん、デートみたいやん!』


…!しまった!墓穴掘った!
言った後に後悔し、また目のやり場に困ったあたしに白石の視線が来る。
穴があったら入りたいとはまさにこのこと!


「デートのつもりやねんけど?」

『…は?』


思わぬ返事に顔を上げた。
また拍子抜けた声が出た。


「せやから、デートのつもりやねんけどー?」

『どういう意味で?』

「言わんとわからへんの?」

『うん、自意識過剰っぽくなるから。』

「じゃー今日の最後のお楽しみな」


笑顔であたしの頭を軽くなで、さー行くかと言わんばかりに歩き出す。


『そんなんずるいわ!』

あたしはそんな白石の後ろを追いかける。

「いずれ分かるんやからえーやん。」

そう言ってまた白石は笑う。
そして、手を伸ばしてくる。

あたしはその手をまた繋ぐ。





自意識過剰なんかじゃなかった





そう思ってもいいよね?



自意識過剰じゃなさそうです



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