庭球 | ナノ



「名前やんか〜!」

帰ろうとしていた私にかけられた声

私の好きな声


『あ、謙也くん…』


名前を呼ぶと笑いかけてくれる


「今帰りなん?」

『うん、謙也君も?』

「せやで〜」


そういいながらお互い歩いて靴箱まで歩く


「せや!よかったら一緒に帰ろうや!」

『あ、うん!ぜひ…!』



部活を引退してしまって本格的に卒業間近になった今この中途半端な時間に帰る人はほとんどいない

そんなときにたまたま出会ったら気軽に声をかけて一緒に帰ってくれる彼

最初は委員会が遅くなって暗くなった時に部活で遅くなった彼と遭遇して不審者が多いから忍足が送ってやれと近くにいた委員会の先生に促されて送ってくれた

その時の嫌な顔ひとつせずに違う方向の帰り道を送ってくれた

一目惚れではないが優しい彼に心をひかれた


「もうすぐ卒業やな〜」

『せやね〜早いわ〜』

「名前はどこの高校なん?」

『うち難波』

「難波とかむっちゃ頭ええやん!」

『いやいや、よくないよ!謙也くんは天王寺だっけ?』

「せやで!」

『ばらばらになるね…』

「せやな〜」



ああ、もう一緒に帰ることができなくなってしまうのだと思うと胸が痛んだ



「名前に会えんくなると寂しいわ」


その言葉が含む意味はなんなんだろう


『うちも寂しいわ』


ぽつりと言葉にしたら分かれ道に差し掛かっていた



『あ、ほなここで』

「おん、気をつけてな」



にこやかに笑う彼にまた心が痛む


彼にとっては私は"よき友達"止まりなのであろう




卒業まであと3日




どうしたらいいのかわからないこの気持ち






好き






その言葉がでないの




さよならが近づく頃に

(どうしよう、どうしよう)

(それでも時は刻み続く)

(近づく別れの季節)