エピローグ





恋人という定義は、不明瞭な土台の上に成り立っている。
そもそも人間の感情は変則的で、絶えず揺れ動くのが当たり前であるにも関わらず、感情によって引き起こされる心的作用、すなわち“恋”に頼りきったもろい関係を、まるで家族の絆であるかのように捉えること自体が危険なのだ。

不動と鬼道は、それに気づいていた。

どんなに今が幸せであっても、この状態に依存してはいけない。
お互いに心の拠り所を得たような気分でいるが、それもまた流れとともに消滅していく可能性を秘めている。
時間という目に見えない概念は、恋愛感情に影響を及ぼし、どんなに抗おうとも残酷にその効力を弱めてしまうのである。
恋愛と友情は反発し、そしていつかは友情を選択しなければいけない時が来るだろう。そうしなければ、薄らぐ恋情の後には何も残らず、二人の共通点は無くなってしまうのだ。少なくとも、根本が異性愛者である彼らにとって、最終的には友愛が極めて強い結束として残る事は明白であった。そういった未来を直視できる現実主義的な思考と、冷静な先見性を、二人は持ち合わせていた。

高校に上がれば新しい恋人ができるかもしれない。
そのうち結婚して子供が生まれて、父親になり祖父になり。
死ぬ間際になって、ふと互いのことを思い出す。そういえば…と。
それでいい。
ずっと一緒などと贅沢は言わない。
ただ、覚えていて欲しいのだ。
例え二度と会えなくなっても、この時間が確かに存在していたのだということを。




鬼道は自分の手を握る不動を見つめながら言った。
「そういえば、まだ言っていなかった事があるんだが」
「んだよ」

「愛してる」

「ばぁか、気持ち悪いこと言ってんじゃねーよ」






…wait till the next game's KICK-OFF



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2010/7/04