burial | ナノ
がしゃん、ときしんだ音をさせて彼女は向こう側に降り立った。
立ち入り禁止のフェンスは、活発な少年少女にとっては取るに足らない存在だった。
次の白いコンクリートの壁もまた同様。手をかけて軽々と登ってしまう。
空は真っ青、浮かぶは入道雲。
かんかん照りの日差しの中、セーラー服の紺色のスカートから伸びる素足を、熱されたコンクリートがじりじりと焼いていた。
嗚呼、夏なのだ。
彼女の足元にも夏空は広がっていた。青い水面は凪いでいる。
かつての新宿の町並みが沈黙したままそこにあった。

肩にかけていたケースから、ギターを取り出す。弦を指で弾いても、エレキで動くそれは幽かに鳴くだけだ。
物心ついた時からずっと水が怖かった。時折見る夢のせいだろう。
沈んで沈んで沈んで、誰にも気づいてもらえないまま死んでいく感覚。
けれど、身を投げるならここであるべきだという確信めいた何かがあった。
だから今日、私は私の夢をここに沈めることにする。

ギターを持つ手そっと離す。
水の音。妙に、大きく聞こえた気がした。
さようなら、また会いに行く日まで。

ギターの影が青に溶けてしまっても、揺らぐ水面をずっと見ていた。

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