彼に咲く六花 | ナノ
出掛けははらはらとちらつく程度だった雪は捜査が終わるころには足首程の高さまで降り積もっていた。
パトカーを止めた道路の脇の段差に腰を下ろす。
今朝のニュースキャスターが言うには今日は今年一番の冷え込み――らしい。

絶え間無く吐かれる白い息も赤くかじかむ指もミズノエには無縁な感覚で、眩しい日差しに悩むことになる夏に比べれば格段に過ごし易かった。
空気の温度が下がる度に体は順応するように冷たくなる。
頬になぞっても雪は形を変えずそのまま自身の肩に重なり、ミズノエは体を覆う白に抗う気も起きずに埋もれていった。
馴染んで、溶けて、消えていく。
あるべき場所に帰る安心感とどこか遠くに連れ去られるような恐怖がそれにはあった。


「まるで死体のようだ」

十数年前に向けられた言葉がふいに脳裏を過る。
じくり、と何処が傷んだ気がした。
手袋を外して自身の首に触れる。
温かい、けれどそれは自分にしか分からないものであった。
生きている、はずだ、こうして動いて話し食べて。

本当に、死んでいるのかも知れないなんて馬鹿な考え、誰かに言ったところで笑い話にしかならないだろう。




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