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「ナミ〜〜! ロビ〜〜〜ン!!」

サニー号に降りると、シャオリーは二人の胸へと飛び込んだ。

「シャオリー!あんた髪どうしたのよ!?」

ナミが、短くなったシャオリーの髪を見て驚いた。

「えっと…… イメチェン?」
「確かにかなり印象は変わるけど…!」
「うふふ。とっても可愛いわよ」

童顔で可愛らしい顔付きのシャオリーには、ボブヘアはとてもよく似合っている。

その時、大砲の音がした。弾はサニー号のすぐそばに着弾し、船が揺れる。

「軍艦が…!」
「もう撃ち込める距離まで来てやがったのか!!」

大砲は続けて撃ち込まれる。
しかし、弾は横から飛んできた矢が突き刺さって海に落ちた。

「あの矢は…!」

刺さった対象を石に変えてしまう、メロメロの実の能力だ。
軍艦の前に、一隻の船が現れた。

「誰じゃ。わらわの通り路に軍艦を置いたのは!!」

ハンコックだ。サニー号を守ってくれたのだ。

「あれは"九蛇海賊団"…」
「何じゃあの絶世の美女は!?」
「"七武海"ボア・ハンコック!? どうしてここに?」
「お!ハンコック達だ!」

ルフィが嬉しそうな声を出した。

「あの"七武海"と知り合いなの?」
「ああ。おれ、女ヶ島に飛ばされたからみんな友達なんだ!」

「必要とあらば、わらわ達九蛇海賊団はいつでもそなたの力になる!」

シャオリーは、別れ際にハンコックから言われた言葉を思い出した。正確にはハンコックからルフィへ向けた言葉だが。

「(早速、助けられちゃった)」

シャオリーとルフィを見送った後、きっとそのまま沖の方で、サニー号が無事に出航するかどうか待っていてくれたのだろう。

「助かった! 今の内に出航だ!!」

フランキーが出航準備に取り掛かる。
サニー号は、レイリーの手によって完璧にコーティングされていた。空気を入れると表面のコーティングが膨らみ、サニー号は巨大なシャボン玉に包まれたようになった。

「みんな、いい!?
コーティング船は色々な圧力を軽減する力があるの。
今船底にある浮き袋を外したら、すぐに帆を張って!」

コーティングを施した船は、浮力が足りなくなり海の中へ沈んでいくという仕組みなのだそうだ。水圧も軽減されるため、海底1万メートルの深海にあるという魚人島にも行く事が出来るというわけだ。
海中では、風ではなく水流を帆で受けて航海するのだと言う。

「出航か? ナミ」
「ええ、どうぞ? 船長」

ルフィはベンチの上に立つ。

「ほんじゃ野郎共!!
ずっと話したかった事が山程あるんだけど!とにかくだ!
2年間もおれのわがままに付き合ってくれてありがとう!!!」
「今に始まったことかよ」
「まったくだ!お前はずっとそうなんだよ!」

船は少しづつ、海中へと沈んでいく。

シャオリーは、改めて周りを見た。
ちゃんと、全員いる。

バサ、と旗が翻った。
サニー号は完全に海中に沈み、ゆっくりと海底を目指す。

すう、とルフィが大きく息を吸い込んだ。

「出航だァ〜〜〜〜〜!!!!!」

"麦わらの一味"は、"新世界"に向けて出発した。


***


「わァ…… 海の中って初めて」

シャオリーは、太陽の光を通してキラキラ輝く水面を見上げる。周りには色とりどりの魚がたくさん泳いでいた。
一度も海で遊んだことがなく、"悪魔の実"を食べてカナヅチになったシャオリーは、海に潜る行為とは縁がなくなってしまった。
シマシマ模様の木の根っこも多数見えた。シャボンディ諸島はマングローブなので、この根っこは海底まで続いているのだ。

「絶景だ!潜水艇でもこんなワイドな窓は付けられねェからな!」
「海はキレーだな〜〜〜!」
「ドキドキする… 人の住む世界が遠のく感じ……」

深く沈むにつれ、小さな魚は少しづつ減り、サメやマグロ、ウミガメといった大きな生き物が目立つようになってきた。
海王類も大型の物が増えてきた。海王類が、更に大きな海王類に捕食される場面など、なかなか見られない貴重な光景なども見られた。

「このまま進んでいけば、無事に魚人島に着きそうだね」
「そうね… でも、」

シャオリーの言葉に、ナミはレイリーからもらったメモを広げる。

「『魚人島を目指す船は、到達前に7割は沈没するので注意』」
「何が起きるんだよォ〜〜!?!?」

ウソップとチョッパーが悲鳴を上げた。

「畜生ォ!魚人島にはハチの奴が案内してくれるって言ってたから、もっと安全に行けるつもりでいたのによォ!」
「そうだ!おれ弁当いっぱいもらったんだ!みんなメシにしようぜ〜〜」

しくしく泣くウソップを励ますように、ルフィはリュックを引きずってきた。ハンコックからもらった弁当が大量にあるので、海流が安定している内に食事を済ませる事にした。

弁当を広げると、フランキーが神妙な口調で話し始めた。

「全員に、おれから話しておかなきゃならねェ事がある」

それは、この2年間、誰がサニー号を守ってくれていたか。

「ハチは、現在魚人島で療養中だ。理由はデュバルと同じ…
サニー号を狙った海賊や海軍と戦いになり、負傷したんだ。それが1年ほど前の事だ」
「え、じゃあ……その後の1年は…?」
「バーソロミュー・くまだ」

数日前。シャボンディ諸島に到着したフランキーは、サニー号へと向かった。
そこで待っていたのは、ボロボロになったくまだったという。
くまはフランキーの姿を見ると「任務完了だ…」と呟き、去っていったのだそうだ。

「(くま……!)」

くまは、たった一人でサニー号を一年間守り続けた。

「あれ? でもくまは、頂上戦争の時にはもう完全な"人間兵器"になっちゃったって、フラミンゴさんが言ってたけど」
「ドフラミンゴのこと?」
「レイリーからの話によれば、くまはベガパンクとの間に、一つだけ任務をプログラムするという約束をしていたらしい」

"麦わらの一味の誰かが再び船に戻って来る日まで、海賊船を死守せよ"

「やり方がメチャクチャすぎるな。なぜおれ達にそこまで…」
「くまは革命軍の幹部だった」
「となれば、ルフィの親父が革命軍のボスで、シャオリーの母ちゃんが革命軍のメンバーだって事が関係ありそうだけどな」
「おれ、父ちゃんのことよく知らねェもん。
でもくまみてェな奴、やっぱ良い奴だったのかー」

「バーソロミュー・くまは、麦わら達を逃がす為に来たって事か?」

キッド達の予想通り、やはりくまは麦わらの一味を黄猿や海軍から逃がす為にやって来たのだ。
革命軍の幹部だった故に、ボスであるドラゴンの息子や、同じく幹部のシャロンの娘を助ける為に……

「今となっては、本人にその胸の内を尋ねる事もできねェが…
心に留めておけ。この一味にとって、バーソロミュー・くまは"大恩人"だって事をな」

先程、くまと同じ外見のパシフィスタを1体潰してきたシャオリーは胸が痛んだが、あれはただ見た目が同じなだけで中身は違うのだと無理やり納得した。

その後は、この2年間どこで何をしていたのか、お互いに話し合った。

「ルフィとシャオリーが一緒に、レイリーのところに居るっていうのは知ってたけど」
「あ、でも修業中は私とルフィは別の島にいたから…2年間ずっと一緒だったわけじゃないよ」
「女ヶ島は女しかいねェって聞いた事あるけど、本当にあるんだなァ」
「ちょっと羨ましいわ〜。私が飛ばされた空島は、おじいちゃんしか居なかったもの……みんな良い人だったけどね」
「畜生…! おれなんて…おれなんてなァァ!!!」

サンジはカマバッカ王国に飛ばされたそうだ。その名の通りニューカマー、いわゆるオカマの人だけが集まる国だ。

「カマバッカ王国…?
も、もしかして、イワンコフさんに会った!?」
「え!? イワちゃん!?」
「ああ。二人のことも、戦争の話も聞いたよ」
「革命軍に匿われてる時、確かに彼……彼女?から連絡があって、私もいろいろ話を聞いたわ」

ロビンはなんと革命軍の元で2年間を過ごしたそうだ。

「お母さんに会った?」
「おれの父ちゃんもいたか?」
「ええ」
「お母さんの話、いろいろ聞かせて!」

目を輝かせるシャオリーを見て、ロビンはふふと笑う。

「(もう一人、二人に縁のある人もいたけど)」

ロビンはとある人物の顔を思い浮かべ、シャオリーとルフィを見た。
だが、ロビンから言うつもりは無い。いずれ、二人にも分かる時が来るだろう。

船は順調に進み、段々と陽の光が届かず周りが暗くなってくる。

「もうだいぶ沈んだな」
「1000メートルは超えただろう」
「静かね。潜水艇とは全く違う気分」

もうとっくに"深海"と呼ばれる深さまで潜っていた。
明るい海は美しく綺麗だが、暗い海は一気に不気味さが増してくる。
だが魚人島は海底1万メートル。まだ10分の1しか進んでいない。

「おい!船がこっちに近付いてくるぞ!」

ウソップが叫ぶ。
見れば、サニー号より一回りも大きい船がこちらに真っ直ぐ突っ込んでくる。船は海王類に引かれており、スピードを保ったままサニー号にぶつかってきた。

「海賊船だァ!!」
「船を押し付けてくる…!」
「まさかこっちに乗り込んでくる気じゃ!?」

相手も海賊船のようだが、見慣れない船だ。船がぶつかり、サニー号は大きく揺れる。

「ちょっと待って! あれって」

ナミが何かを見つけた。

「あんた!アーロン一味のモームでしょ!?」

相手の船を引く海王類に声をかける。
牛とジュゴンが合体したような海王類で、かつてアーロン一味の仲間としてシャオリー達は戦った事がある。

「ん? コイツ見た事あるよな、ルフィ」
「…………そうだっけ?」
「あるよ。ルフィ、思いっきり振り回してたよ」
「……………………そうだっけ?」

モームはルフィとサンジを発見すると、目を涙を浮かべてガタガタ震え出した。あの時刻まれた恐怖は、彼の心に相応な傷を残したらしい。

「野郎共ォ!おれに続いちゃえ〜〜〜〜!!」
「わーー!!誰か船に入って来たァ〜〜!?!?」

その間に、男がシャボンを抜けてサニー号に侵入してきた。

「ケヒヒヒヒ! こいつらが呆気に取られてる内にィ〜〜〜船内皆殺しにしちゃいやがれェ〜〜〜い!!!」

ルフィ、ゾロ、サンジ、シャオリーが戦闘態勢に入る。
男が完全にシャボンをすり抜け、その後ろから部下達が続いてサニー号に乗り込もうとした、その時。

「モォォォオオオオ〜〜〜〜〜ッッ!!!」

モームは悲鳴を上げながら猛スピードで逃げて行ってしまった。
しかし、乗り込んできた男は気付いていない。

「さァ挨拶代わりにィ〜〜!!ガトリング銃をぶっ放せェ〜〜〜!!!
"麦わらの一味"を全員ブゥチ殺して…………、?」

そこで男は口を閉じる。
しーん、と辺りは静まり返った。

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