177
「お〜〜〜〜!!キレーな場所だなァ〜!!」
「ここが"海の森"…」

シャオリー達は"海の森"に到着した。
巨大な珊瑚が密集して生えており、地面には深海の花や小さな珊瑚がたくさん生えている。周りには魚やクジラもたくさん泳いでいた。

「え〜〜ん、ありがとうございますルフィ様…わたくし…ずっとここに来たかったのです〜〜」

しらほしはまた泣き出した。本当によく泣くお姫様だ。

一角だけシャボンが張ってあり、その中にサニー号が停まっているのが見えた。そばにはフランキーの姿もある。
メガロはサニー号のそばに着地し、シャオリー達も降りた。

「フランキー!」
「アウ! ルフィとシャオリーか! お前ェら、ずいぶんなピンナップガール連れてんじゃねェか」
「紹介するよ。こいつ、弱虫!」
「紹介の仕方」
「そうか、弱虫か。しっかりしなきゃな、お姉ちゃん」
「すみません… わたくし、しらほしと申します」

しらほしは気が弱くすぐ泣くが、人見知りはしないようだ。初めて会うフランキー(サングラスに海パンという出で立ちで、とても人間とは呼べない容姿)にも億したりせずに話している。

「おお!ルフィ君!?見違えたぞ!!!」

ジンベエが現れた。

「「 ジンベエ〜〜!! 」」

ルフィとシャオリーはジンベエに駆け寄る。傍から見ると、大好きなおじいちゃんと会えて喜ぶ孫達のようだ。

「シャオリーも一緒だったか! 懐かしいな」
「うん。私は竜宮城で伝言を聞いて… ちょうどルフィが"海の森"に行くって言うから一緒に来たんだけど」

シャオリーはちらりとしらほしを見た。

「そうか、それでしらほし姫もご一緒に……
しらほし姫ェェ〜〜〜〜〜!?!?!?」

ジンベエは絶叫した。

「なぜここに!?」
「実はかくかくしかじかで」

シャオリーが手短に説明する。
シャボンの外の少し離れたところに、祠のような建物が建っていた。屋根に十字架が掲げられている。あれが、しらほしが訪れたかったというお墓だろう。

しらほしは墓を見て涙を浮かべ、一人で泳いでいった。墓の前に座ると祈るように両手を組み、そっと目を閉じる。
シャオリー達はしばらく彼女を一人にさせてあげる事にした。目は届くし、辺りは静かで危険も無さそうだ。

「あれがあいつの言ってた墓かァ。長ェこと、ああやってんな」
「彼女の母、オトヒメ王妃が眠っておられる」
「お母さん…?」
「姫はタイミング悪くバンダー・デッケンの毒牙にかかり、母の葬儀にも出られずに硬殼塔で10年を過ごして来たんじゃ」

きっと、伝えたかった言葉がたくさんあるのだろう。
10年前と言うと、しらほしはまだ6歳。あまりにも早い別れな上に、満足に見送りもできなかったとなると、幼い心はどれだけ苦しんだだろう。
今日、やっと彼女は母と再会できた。その頬には、温かい涙が零れていた。

チョッパーはハチの手当てを終え、石化の解かれたサンジもようやく落ち着いてきた頃、聞き覚えのある声がシャオリー達を呼んだ。

「ルフィ〜〜〜!!」
「あれ!? しらほし姫が一緒に…?」

お魚タクシーから降りてきたのは、ナミとケイミーだった。
二人は竜宮城から来たはずだ。デッケンが人間の海賊を送り込んで来たが、無事に撃退できたのだろうか。

「二人とも、大丈夫だったの? 他のみんなは?」
「大丈夫じゃないわよ! シャオリーがルフィを連れてすぐに戻ってきてくれると思ってたのに、全然帰ってこないし」
「うっ……それはごめん」
「一体何があったんだ!?」

ナミとケイミーは簡潔に述べた。
しらほし姫が行方不明で王達は大騒ぎしていること、デッケンの能力を使って人間の海賊が送り込まれたこと、デッケンと手を組んだホーディ・ジョーンズが竜宮城で暴れ回っていること。
ナミとケイミーは、ルフィとシャオリーを呼び戻すと共にジンベエから話を聞きたいと思い、竜宮城を抜け出し"海の森"へ来たそうだ。

「何と! 竜宮城がそんな大変な事態になっておったとは!!」
「ゾロ達はどうなったんだ!?」
「わかんない。あんた達に会えたら戻ろうと思って」
「すまん…! 早くもお前さん達を巻き込んでしまったか…」

ジンベエはグッと項垂れる。

「そういえば…『ホーディとは戦うな』って」

シャオリーは伝言を思い出した。
ジンベエは、恐らくルフィとホーディをぶつけたくなかったのだろう。ルフィがホーディより弱いとか、ルフィじゃホーディには勝てないとか、そういう理由ではないことくらいはシャオリーにもわかる。

「2年前、ルフィ君と会った時は今以上にこの事を話せる状況ではなかった…」

ルフィとジンベエが出会ったのは戦争の直前、インペルダウンの最下層階で。シャオリーがジンベエと出会ったのは、戦場のど真ん中だった。
戦争終結後もしばらく彼とは行動を共にしていたが、あの時は誰もが心も体も不安定だった。込み入った話は到底できる状態ではなかった。

「"東の海"にてアーロン一味の暴走を食い止めてくれた者達に対して、わしは深く感謝しておった…
お前さんらなんじゃろ? ありがとう…!!」

シャオリーはちらりとナミを見た。
アーロン関連の話は、ナミの中のデリケートな部分に触れてしまうので反応が怖い。

「同時に、謝罪もさせて欲しい。
11年前… アーロンを"東の海"に解き放った張本人は、わしなんじゃ!!」

アーロンを解き放った…?

「おれもそう聞いてるぞ!」

すると、サンジが怒ったように声を荒げた。

「昔、初めて"七武海"のジンベエって名を聞いた時も、ヨサクの野郎にそう説明された」

ヨサクとはまた懐かしい名前だ。ゾロの賞金稼ぎ仲間で、ジョニーという男とペアを組んでいた。

「だからおれァ、ジンベエってのはアーロンの黒幕のような存在だと思っていた。
何か言い訳してェなら聞くが、言葉にゃ気を付けろよ…!
何を隠そう、ここにいる麗しき航海士ナミさんの故郷こそアーロンに支配された島。彼女自身耐え難い苦汁を嘗めてきた1人だ」

その言葉を聞いて、ジンベエの顔色が変わった。
ナミは俯く。アーロンや魚人達に蹂躙された日々を思い出し、微かに身体を震わせた。

「………ずいぶんヒドイ目にあわされた様じゃな」
「ええ。何があっても、今更アーロンを不憫に思うつもりはない……
だけど、私は2年前シャボンディ諸島に着くまで、あんなに強い魚人達が人間から迫害を受けてたなんて知らなかった」

魚人は強い。人間の何倍もの力を持ち、頑丈で、水中も自由自在に泳げる。生物として、魚人が人間より優れているのは事実だ。
だが、数の暴力には敵わない。人間は魚人より圧倒的に多いのだ。

「人攫いに捕まったシャオリーとケイミーを探してる時、私は目を疑ったわ。『シャボンディパーク』が、アーロンの建てた『アーロンパーク』にそっくりだったから」
「……ニュ〜…… 憧れてたんだ…」

ハチが弱々しく答える。

「許して欲しくて言うんじゃねェぞ…ナミ…
アーロンさんは人間が大嫌いで、人間を恨み、おれ達はやりすぎた……でも、ガキの頃から人間の住む世界に憧れを持っていたのは事実だ」

2年前、ケイミーもシャボンディパークに強い憧れを持っていた。観覧車に乗るのが夢だと言い、ルフィやシャオリーが一緒に居たお陰でその夢は叶った。

ほんの200年前まで、魚人と人魚は"魚類"に分類されていた。人格を持った生き物ではなく、ただの魚として扱われていたという事だ。
200年前に「リュウグウ王国」は世界政府の加盟国となり、国王は"世界会議"への出席も許されるようになった。だが、魚人への差別は無くならなかった。

「一番ひどかったのは大海賊時代のはじまり……人間の海賊がこの島で暴れ回る恐怖は、今でもハッキリと覚えてる」
「そこを救ってくれたのが、今は亡き白ひげのオヤジさんじゃ」

魚人島を自分のナワバリにしたのだ。もし魚人島に危害を加えたなら、それは白ひげに喧嘩を売ることと同義だ。

「だからといって、人間達の魚人嫌いが止むわけじゃない。
魚人と人間の交友を決めた"政府の中枢"に近付く程、差別体質は深く根付いて変わる事はなかった…」

おかしな話、権力を手にした者程、変化を恐れるのだ。
"魚人族"・"人魚族"という新しい分類ができても、国王が"世界会議"に参加できるようになってもそれは表向きだけで、結局何も変わらなかった。

「そんな折、魚人島ではこの腐った歴史を変えようと二人の人物かが立ち上がったんじゃ。
一人は『オトヒメ王妃』
人間と"共に暮らす"事を島民に説き続けた、しらほし姫の母上じゃ。
そしてもう一人は、奴隷解放の英雄『フィッシャー・タイガー』
人間との"決別"を叫び、世界のタブーを犯し……たった一人で聖地マリージョアを襲撃し、奴隷達を救った」

フィッシャー・タイガー。
海賊女帝ハンコックと二人の妹の恩人だ。

「……何とかタイガー… どっかで聞いたぞ?」

ルフィがむむむと顔をしかめる。ルフィもハンコックから聞いてるはずだが、ハンコックの人には知られたくない繊細な部分に触れてしまうので、シャオリーは何も言わなかった。

「後に『タイヨウの海賊団』を結成する男じゃ。
わしもアーロンも、当然ハチも、その『タイヨウの海賊団』に所属する事になる」

ジンベエの胸には、タイヨウの海賊団のマークが見えた。ハチの額にも、アーロンの肩にも同じマークがある。
その名の通り、太陽のような形をしている。

「今を耐え忍び未来を変えようとするオトヒメ王妃に対し…
未来を捨てて、今苦しむ同族の奴隷達を救い出したフィッシャー・タイガー。
どちらが正しいかなど、とても決められん」

ジンベエの語る魚人島の歴史。それは差別との戦いだった。
オトヒメ王妃とフィッシャー・タイガーの偉業と死、そして魚人海賊団の成り立ち。

「(差別と戦った二人は、どちらも人間が原因で亡くなった……)」

人間に撃たれて命を落としたオトヒメ王妃と、人間の血を拒んで死を選んだタイガー。
魚人達の、人間に対する憎悪の理由はわかった。

「とにかく、あんたがアーロン一味の黒幕じゃなくてよかった。だって、ルフィとシャオリーの友達なんでしょ?」

ナミが近くの珊瑚に腰掛ける。
ジンベエがオトヒメへの贖罪として七武海入りし、その恩赦で投獄されていたアーロンが釈放されたと聞き、ナミは安心したようだ。ジンベエが望んでアーロンを"東の海"に送り込んだわけではなかった。

「確かにアーロン一味には酷い目に遭わされたけど、そんな酷い渦の中で出会った仲間もいるのよね。
全部繋がって私ができてんの!」

だから謝るなと言うナミに、ジンベエは目を見開く。
謝罪とは、ある意味相手を否定する行為だ。ナミは可哀想な人生を送ってきたのだと一方的に決め付けられるのが、気に入らなかったのかもしれない。

「かたじけない……!!!」

ジンベエは俯き、涙を流した。
彼の胸の内を思い、ナミは少し目を細めた。

「それで……ホーディはアーロンの意志を継いでいるってこと?」

アーロンがココヤシ村を支配したように、ホーディはリュウグウ王国を支配しようとしている。
ホーディは、アーロン以上に人間を嫌い蔑んでいる。今のリュウグウ王国の「人間に歩み寄る」姿勢に耐えられないのだろう。

「今年は『世界会議』の年… ネプチューン王が『魚人島移住』を意志を伝えに行く予定だったが」
「それを阻止するのが狙いか…!」
「それに、ホーディが王に成り変われば、魚人島を政府加盟国から除名しようとするだろう…」

そんな事になれば、オトヒメ王妃や、彼女の意志を継いだ者達の心を踏みにじる事になる。
そして、人間と魚人が分かり合える未来はもう来ないだろう。

「わー!森からでっかい電伝虫!」

チョッパーが叫び、シャオリー達は俯いていた顔を上げる。
森から巨大な映像電伝虫が出てきて、シャボンの壁に映像を映し出した。

「あ!あいつよ!!」

映像に映る男の顔を見て、ナミが叫ぶ。
灰色がかった白い肌に、大きく裂けた口はまさにサメそのもの。男は電伝虫の受話器を手に、スピーチを始めた。

『あ〜、全魚人島民。聞こえるか?
おれは「新魚人海賊団」の船長……ホーディ・ジョーンズだ』



戻る
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -