175
「取り押さえろ!!!」
大臣が叫び、兵士が一斉に襲いかかってきた。
「!?!?」
シャオリー達は驚くも、すぐに切り替え、反撃に出た。
2年間修業をして成長したシャオリー達には、城の兵士などほとんど相手にもならなかった。
「一体何なの!?」
「なぜ突然襲ってこられるんでしょうか」
理由が分からないまま、とりあえず襲ってくる兵士を退ける。
「とぼけるな!!
お前達は先ほど"人魚の入江"で若い人魚の娘を攫ったという報告が届いている!!」
「「 えっ!? 」」
身に覚えのない罪状に、さっきまで"人魚の入江"にいたシャオリーとウソップは困惑する。
「どういう事? 私達が人魚を攫った?」
「何の話かわかんねェよ!!」
「入江にいた他の娘からの証言によると、突然悲鳴が聞こえ、見に行けば、そこにいたはずの人魚の娘が3人消えてしまったというのだ!!」
「その時入江にいたのは、"麦わら"にやられた魚人街の3人と、我々警備隊、そしてお前ら"麦わらの一味"だけだ!!!」
「ただその場にいただけで犯人扱いだなんて、失礼にも程がありますよ!」
「そうよ! 私達がやったという証拠はあるの!?」
全く理解ができない。
人魚が突然行方不明になったのは、私達が攫ったから?
「お前ら人間には、いつだって人魚を攫う理由がある!」
「………ああ、そういう事」
若い人魚の娘は、高い値段で売買される。
"人間"は、人魚を売る生き物。
人間が魚人や人魚を蔑むように、魚人や人魚もまた人間のことをそういう目で見ているのだ。人間は皆、人魚を売り捌いて金を得ようとする生き物なのだと。
「私達が"人間"だから」
兵士が5人飛びかかってきたが、シャオリーは吹き飛ばした。
証拠なんて無くていいのだ。だって、人間は人魚を攫う生き物だから。
「2年間、どんな思いでケイミーを助けたか」
シャオリーは、隅の方で怯えるように震えるケイミーを見た。
共に人攫いに捕まり、競りにかけられた。
「"人攫い"に捕まって、どんなに怖い思いをしたか」
首に爆弾を着けられ、自分の命を他人に握られる恐怖。
絶望に染まった"商品"達の目。自決を選んで、息絶えようとしていた男もいた。
「魚人(ともだち)を守る為に、天竜人さえ敵に回した」
ハチやケイミーを傷付けた天竜人を、ルフィは殴り、シャオリーは蹴り飛ばした。その代償に、海軍大将がやって来るとわかっていても。
「そんな私達が、人魚を攫ったって…?」
自分も海賊だ。人に誇れるような生き方ではない。
だが、少なくとも人道に背いた事はないし、いたずらに他人を傷付けたりした事も無い。
「ふざけないでよ」
シャオリーは、兵士が向けてくる槍を握った。グッと力を込めると、槍はバキンッと粉々に砕けてしまった。
鉄ではなく金あたりで作った槍のようだったが、普通の握力ではまず折れない。実は密かにシャオリーは武装色の覇気を使っていたのだが、それに気付かない兵士だけでなく、ナミやウソップまでもが「ひい」と悲鳴を上げた。
「そ、それだけではないっ!」
気圧された大臣が、気を取り直して続けて叫ぶ。
「占い師"マダム・シャーリー"によれば、"麦わらのルフィ"が魚人島を滅ぼすという未来予知もなされた!!」
マダム・シャーリー。
マーメイドカフェの店長で、先ほどシャオリー達に部屋を貸してくれた。まさに今、サンジとチョッパーは彼女の家にいるはずだ。
「占いでそういう未来が見えたからって、なんでそんなんで捕まらなきゃならねェんだ!」
「絶対に当たる占いなんて、あるの?」
「マダム・シャーリー、さっき会った時は普通に良い人だったんだけど」
「彼女の占いは絶対の未来。よって、お前達は魚人島に仇なす危険人物と判断された!!
先に城に招いていた剣士は、既に捕らえている!!
お前達も大人しく降伏した方が身のためだぞ!!」
ゾロは先に招待されて酒盛りを始めていたと聞いたが、当然彼も捕まったらしい。もしかしたらサンジやチョッパー、他の一味の元にも城の兵士が向かっているのかもしれない。
「じゃあみんなを見つけて、早く島を出よう」
「結局こうなっちまうのか」
「竜宮城のお酒、楽しみにしてたのに」
珍しく歓迎されたと思ったら、手の平返しで結局はこうなってしまう。
魚人島は海賊によって苦しい思いをしてきた島だし、そこに人種差別も絡んでくるとなると、あまり長居はしない方が良いのかもしれない。
「未来予知などという不確定な要素で、人を捕らえても良いものか…」
国王ネプチューンは、シャオリー達と兵士が戦っていてもずっと静観していた。証拠のない誘拐と、確証のない未来視を理由にシャオリー達を捕らえても良いのか考えているようだ。
「考える時間が欲しいんじゃもん。
したがって、一旦捕まってくれい!!」
しかし遂に武器を手に、襲いかかってくる。
「これは手強い…!」
「まともに受けたら駄目だよ」
相手の力量を瞬時に感じ取り、今までの兵士とは戦力が桁違いだと気付いたブルックとシャオリーは、身構える。
しかし。
ガキィン…!
巨大な金の三叉槍を、二本の刀が受け止めた。
「ゾロ!!」
どこからともなくゾロが現れ、ネプチューンの攻撃を防いだのだ。
「お前、捕まってたんじゃ!?」
「祭囃子が聞こえてきたんで、出て来た!!」
ニヤリと悪役さながらの笑みを浮かべ、ゾロは三叉槍を押し返す。
さすがのネプチューンは倒れはしなかったものの、少し後退すると槍を捨て、今度は海水を"掴む"。
「?」
ゾロが眉をひそめる。
「"人魚柔術"…」
まるで海水を投げるような構えを見せるネプチューン。
「(あれは)」
海水を、さも形があるかのように掴み、投げる。
2年間の頂上戦争で、ジンベエが似た事をしていたのをシャオリーは思い出す。海水を掴んだり、投げたり。魚人や人魚にしかできない技なのだろう。
だが。
「む、おおっ!!」
ネプチューンはその体勢のまま体を硬直させ、動かなくなってしまった。
「国王様っ!」
「いかん、ぎっくり腰だ!!」
大臣が騒ぎ出す。どうやら腰をやってしまったらしい。
すると、これはチャンスと言わんばかりにゾロはどこからか巨大な鎖を持ってきて、ネプチューンを拘束。動揺した大臣と兵士も、ウソップとナミが縄で即座に縛り上げた。
そして壁にあったレバーを引くと、城の中の海水が全て外に放出されたので、シャオリーとブルックはシャボンから出て来た。
「これは、もしかして…」
結果だけを見れば「海賊が国王を拘束して城を占拠した」事になった。なってしまった。
「いくらなんでもやりすぎだ!!」
「そうですよ!ちょっとは反省してくださいよっ!」
「おめェらが始めた戦いだろうがよ!共犯だ!!」
まさかの展開に、シャオリー達も動揺が隠せない。
「魚人島に立ち寄って、うっかり『竜宮城』を占拠って!
どんな極悪海賊だよ!!」
やられたからやり返しただけなのだが、あまりにも戦力に差がありすぎた。シャオリー達"麦わらの一味"は、強すぎたのだ。
「とにかく、もうこれ以上は島にはいられねェな」
「早く他のみんなも探さなきゃ」
「でもサニー号はコーティングが取れちまったぞ!?」
その時、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。王宮への入り口は、中からレバーを操作しないと開かない仕組みになっている。
近くに置かれている電伝虫が鳴いており、ゾロが何の躊躇いもなく受話器を取った。
「もしもし、誰だ?」
「わーお前が出るなー!!」
「フカボシ王子〜〜!!お助けを〜〜〜!!」
「リュウボシ王子〜〜!!マンボシ王子〜〜〜!!」
「うるせェな!!黙ってろてめェら!!」
ゾロの後ろから大臣達が叫ぶ。大臣達の声は相手にしっかりと届いたようで、受話器の向こうからはフカボシの冷静な声が返ってきた。
『私です、フカボシです。そちらで何が起きているのですか?
今すぐに"連絡廊"を下ろし、王宮の"御門"を開けて下さい!』
「開けたらどうなる? そいつはできねェ」
『………"麦わらの一味"のどなたかでしょうか』
さすがに察しの良い王子は、電話口の相手が何者なのかをすぐに見抜いた。
「こっちには国王含め大量の人質がいる。
こいつらの命が惜しけりゃあ、そっちでおれ達の出航準備を整えろ!」
ゾロは、船のコーティングと残りの船員を集めるようにと伝えた。
人質をとってこちらの要求を飲ませるのは、まさに悪党の所業だ。意図したわけではないのに、結局こうなるのか。
『一ついいか、ゾロ君。
こんな状況でコレを伝えるのは不本意だが、ジンベエへの義理を欠く訳にはいかない』
「(ジンベエ?)」
フカボシが不意に出した名に、シャオリーのみならずネプチューンや大臣達もザワつき出した。
『元王下七武海"海峡のジンベエ"より"麦わらのルフィ"へ。
君らがこの島に到着したら伝えて欲しいと、伝言を二つ預かっている』
ジンベエからルフィへの伝言。一体どんな内容なのか。
ゾロが答えあぐねているようなので、シャオリーが言い添えた。
「ジンベエさんには、2年前の戦争で私もルフィもお世話になったの。
魚人島でまた会おうって言って別れたんだけど……今はこの島にはいないって聞いて」
「わかった。ルフィは今ここにはいねェが、後でおれから伝える」
ジンベエが信頼に足る人物だとわかると、ゾロはそう答えた。
『一つ目は「ホーディと戦うな」
そしてもう一つは……「"海の森"で待つ」』
「ホーディ」も「海の森」もわからないシャオリー達は怪訝な顔をするだけだったが、どちらの言葉もわかる人魚達は更にザワついた。
「ホーディだと…」
「あいつと戦うな、とは?」
「"海の森"にジンベエ親分がいるのか?」
ゾロは受話器を置く。あとはサニー号と他の船員がやって来るまで待つのみとなった。
「ルフィも探しに行かねェとな」
「私探しに行くよ。海水がないならお城の中、歩き回れるよね?」
「肉を置いておけば向こうから来るだろ」
「そんな…ゴキ〇リホイホイみたいな…」
「それより、宝物庫はどこ?」
「私はお腹がすきました」
各々好き勝手な言動をし始めた時、突然轟音が響き渡った。
ドドドォン、ズドォン、ドゴォン、爆発音とは違うが、何か硬いものがぶつかるような音だ。
「まさかデッケンの槍か!?
『硬殻塔』の方じゃもん!!しらほしが危ない!!
おい海賊達!兵に代わって姫の安全を確かめて来いっ!!」
「あァ!?何言ってんだ?」
「姫って……人魚姫のこと?」
国王の末の娘、人魚のお姫様だ。
そういえば話は聞くのに、ここに来るまで一度も人魚姫は姿を見せていない。
「『硬殻塔』は城の北東にある!お前達すぐに行け!!
しらほしは訳あって常時命を狙われておる!!
娘に何かあったら!!おぬしら海溝の果てまで追い立てるぞ!!!」
先ほど、パッパグから「人魚姫は結婚を断った恨みからバンダー・デッケンに脅迫されている」と聞いた。
もしかして、そのバンダー・デッケンが人魚姫の命を狙って、竜宮城へ攻撃を仕掛けてきている!?
「私が行く!」
シャオリーは立候補した。その間も、轟音は止まない。
「"人魚姫"!!しからば私めが馳せ参じて仕り候!!」
続いてブルックも。
「パンツ見せて頂いてもよろしいんでしょうか!?」
「よろしくないよ!?」
「待て!私も連れて行け!!」
「!!!」
ブルックが硬殻塔へ向かって走り出したので、シャオリーも慌てて追いかける。
すると大臣が叫び出したので、ブルックは彼を担いだ。
「(人魚姫の命とパンツは私が守らなきゃ…!)」
王宮の廊下を北東に進む。
ちなみにシャオリーもブルックも、人魚は下半身が魚なのでパンツは履かない事に気付いていない。
やがて硬殻塔が見えてきた。
「うわっ、ひどい…」
頑丈な鋼鉄の扉に守られたその塔は、斧や剣が刺さっていたり、鉄板であちこちツギハギだらけだった。バンダー・デッケンが本気で姫の命を奪おうとしているのが目に見えて、シャオリーは不快感を拭えなかった。
「(結婚を断られたからって……最低な男)」
きっと、姫はあの塔の中に閉じ込められているのだろう。
しかし厳重な警備の竜宮城に、どうやって武器を投げ付けているのだろうか。
「なっ、なんと!? おい!塔の周りを見よ!!」
ブルックに抱えられていた大臣が驚きの声を上げる。
「そんな馬鹿なこと…! 飛んで来たのはいつものナイフや斧ではない!!」
「えっ、これって」
塔の扉の周りには、たくさんの"人間"が転がっていた。頭から血を流し、中には塔の壁に突き刺さったままの者もいる。
「海賊…!?」
大臣いわく、バンダー・デッケンは"悪魔の実"の能力者で、狙った的に向かって物を飛ばせるという能力を持つそうだ。
人魚姫を的と定めれば、彼女に向かって物が飛んで行く。例えどんなに離れようとも、間に何が立ち塞がっていようとも。
いつもは武器を投げ付けてきたが、今回はその能力を上手く利用して人間を飛ばしてきた。
侵入不可能と言われる竜宮城に、彼はいとも簡単に手駒を侵入させる事ができたのだ。
「これは奇襲だ…! 王が危ない!!」
「この海賊達はどうする!? 倒した方がいい!?」
「彼らの狙いは何でしょう!? 広間にいる皆さんにも知らせた方が良いのでは」
どうするべきかシャオリー達が決めかねていると、突然硬殻塔の扉が開いた。
「行けェ!!サメ〜〜〜!!!」
扉からは巨大なサメ(?)と、その頭に乗ったルフィが飛び出してきた。
「メガロ〜〜!?」
「あれ!?ルフィさん!?」
「……!!」
ルフィを見つけた。巨大なフグに乗って、どこかへと向かう。
硬殻塔から出て来たという事は、人魚姫に会っていたのか?
「ブルック! 私はルフィに何が起きたのか説明してくる!
この海賊達のことは任せても大丈夫?」
「ええ、お任せ下さい!」
シャオリーは巨大フグに向かって飛ぶ。
「ルフィ!!」
「ん? あ!シャオリー〜〜!!」
シャオリーが呼べば、ルフィはすぐに気付いて両手をブンブン振ってくる。
「良かった! 急にいなくなったから、どこに行ったのかと思って」
「美味そうな匂いがしたから、てっきり宴の会場かと思って見に行ってたんだ」
つまりは、ご飯の匂いにつられてしまったらしい。
「これから"海の森"に行くんだ! シャオリーも行こう!」
「"海の森"!?」
ジンベエが待つと言っていた場所だ。
シャオリーもフグの頭に着地し、ルフィのシャボンに入れてもらった。
「ちょうど良かった。今、ジンベエさんからの伝言を聞いたところで…」
シャオリーは、ジンベエの伝言を伝えた。
「ホーディって誰だ?」
「知らない。でも"海の森"に行けばジンベエさんに会えるから、本人から聞けばいいよ。
ところで、なんでルフィはフグに乗って"海の森"に?」
「弱虫が行きてェって言うから」
「弱虫?」
ルフィはパシパシとフグの頭を叩く。
「こん中に入ってんだ!」
「???」
話が見えない。
「あ、あの……ルフィ様のお友達ですか…?」
突然、可憐な少女の声が聞こえた。
「ああ。シャオリーだ! おれの仲間だ」
「フグがしゃべった…」
「人魚姫だよ。散歩してェって言うんだけど、でかくて目立つから、サメの中に入って隠れてんだ」
まるまる呼吸3つ分は時間が空いた。
「人魚姫…?」
「わ、わたくし、しらほしと申します…!」
身を乗り出してフグ、もといサメの口を見てみれば、確かに中から美しい少女の顔が見えた。
「ええーーーーっ!?」
戻る