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どのくらい落ちただろうか。
シャオリーは目を閉じていたが、瞼の向こう側が明るくなったのを感じて、そっと目を開けた。

「……?」

辺りには、光が溢れていた。

サニー号は海底に倒れていた。
幸いシャボンは割れておらず船も無傷だ。

「おい!シャオリー見ろよ!あれ!!」

テンションが上がったルフィが、はしゃぎながらシャオリーを起こしに来た。
眩しさに目を凝らしつつ、ルフィが示す先を見る。

「あれが"魚人島"…?」

巨大なシャボンに、島が収まっていた。
深海なのに、そこだけ太陽の光が降り注いでいる。よく見れば、空のようなものも見える。シャボンの中には空気もありそうだ。
島の周りはクジラやシャチ、大型の海王類がたくさん泳いでいた。

「でっっっけェ〜〜〜!!!」
「やった〜〜〜!!着いたぞ〜〜〜!!!」

遂に、魚人島に到着した。

「人魚達の舞い踊る島!!美しい人魚姫!!
ついに辿り着いたんだ!ガキの頃から憧れた夢の楽園!!」

サンジは歓喜の涙を流しつつ、鼻血を吹き出して倒れた。

「ダメだ!!妄想だけでこのザマ!?」
「本物の人魚には会わねェ方が…」
「いや!!おれは会う!!
夢叶わず生き長らえるくらいなら、人魚達をエロい目で見て死にたい」
「最低だな」

気合いで起き上がったサンジを、ウソップは冷めた目で見る。

「(人魚に会って、ほんとに死んじゃったらどうするんだろう…)」

本人にくいがないなら良いのかもしれないが、さすがにルフィが一緒に居るのにみすみすサンジのことを死なせはしないだろう。

「楽しみだなー!
魚人島の料理には何の肉が入ってんのかなー」

そのルフィは、様子のおかしいサンジの事など目に入っておらず、魚人島の料理に思いを馳せてヨダレを垂らしている。

「魚人島には珍しい薬とか医術とかあるのかな」
「ここにしか咲いてないお花や植物もあるかしら」
「確か魚人島にはブランドがあるって言ってたわね。可愛い洋服欲しいわァ」
「酒」

スルメに魚人島の入口まで船を運んでもらい、皆はそれぞれに楽しみな事を口にする。誰もサンジの心配をしていない。

「おいクラーケン!!!
何を人間なんぞに従わされてるんだ!!!」

だが突然荒々しい声がして、スルメがはたと足を止めた。
行く手には、無数の海獣達が立ち塞がっていた。

「なんだコイツら!?」
「海獣だ! カッコイイな〜!」

スルメは怯えたように震え出し、サニー号をぽいと放り投げ、逃げるようにどこかへと行ってしまった。
海獣には誰かが乗っていた。

「お前達、"麦わらの一味"だな?
かつて"アーロン一味"の野望を打ち砕いた海賊達。それで済めば良かった話だが……
よりにもよって2年前、元"アーロン一味"の幹部ハチさんを庇って"天竜人"をぶちのめしたとも聞いている」

三人いた。ハモの魚人と、ミノカサゴの魚人と、タコの人魚だ。

「まったく、扱いに困る。お前達は敵なのか味方なのか…」

魚人の体には刺青が入っていた。アーロンと同じマークと、頭が落ちた人間のマークだ。
刺青を見てナミが微かに表情を固くしたのに、シャオリーは気付いた。

「海賊も、いわば人間の敵。お前達には選択する権利がある。
我々『新魚人海賊団』の傘下に下るか!拒否するか!
拒めばここで沈んで貰う!!」

新魚人海賊団?
魚人海賊団はかつてジンベエが船長だったと思うが、どうやらそれとは別の新しい海賊団が結成されているようだ。

「いやだね〜〜〜!!!バ〜〜〜カ!!!」

ルフィは当然断った。

「残念だ。じゃあここを通すわけにゃいかねェ…
海獅子!!!」

ハモの魚人は、ライオンの頭をした海獣に命令を下す。
海獅子が唸り声を上げてサニー号に襲いかかる。

「"クー・ド・バースト"!!!」

全エネルギーを使ったクー・ド・バーストで、サニー号は魚人島に向かって一気に突き進む。
その瞬間、船の中の空気が一気に奪われたためシャボンがペチャンコに萎んだ。船の上は、いわば真空に近い状態になった。
上からシャボンに押し潰され、シャオリーは仰向けに倒れた。すると、シャオリーの上にルフィがうつ伏せで倒れてくる。

「んんぶ!! んんむむう!!」
「あっ、ちょ、ルフィ! あんま、しゃべんないで…!」
「んんんう!?」

ルフィはシャオリーの胸に顔を埋めていた。だから息ができず、ルフィは唸りながら顔をモゾモゾ動かして何とか息をしようとしている。
だがルフィが動いたり喋ったりすると、その振動がシャオリーに伝わってくすぐったいのだ。

「あっ、ル、ルフィ、ふふっ」
「んんん〜! ぶはっ」

ルフィが顔を上げて、息を吐く。呼吸ができて一安心したのか、シャオリーの胸に顎を載せた。シャオリーから見ると、ルフィの顔を胸で挟んでいるかのようだ。

「シャオリー、ちょっとおっぱいデカくなったんじゃねェか?」
「………えっ!?」

むにゅん、とルフィがシャオリーの胸を触る。
だが次の瞬間、サニー号が魚人島を包むシャボンに突っ込んだ。
そして、体を押し付けている圧迫感が消えた。

「ん!?」
「シャボンが…っ」

サニー号をコーティングしていたシャボンが、島を包むシャボンに吸収されて剥がれてしまった。

「シャボンが剥がれた!!」
「島のシャボンは二重構造よ!ここはシャボンとシャボンの間…」
「2つ目のシャボンに突っ込むぞ!!」
「あっ!おいコラルフィてめェ!どさくさに紛れてシャオリーちゃんにセクハラすんじゃねェ羨ましいそこ代われ!!!」
「途中から本音ダダ漏れだぞ」

サニー号の勢いは衰えず、2つ目のシャボンに突っ込んだ。
同時に、流れ込んでくる海水。2つ目のシャボンの中は、海だったのだ。
誰かが動く間もないまま、サニー号は海の中へと飲み込まれていく。

シャオリーはもちろんルフィ、チョッパー、ロビン、ブルックは身動きが取れない。だが潮の流れが激しく、泳ぎに長けた者でもこの流れの中を泳ぐ事は不可能と思われた。

潮に揉まれ、流されながら、シャオリーは体の力と同時に意識も抜けてしまった。


***


「けほっ、ごほっ」

シャオリーは急に息苦しさを覚え、意識を覚醒させた。
咳をすると、一緒に海水が出てきた。

「!?」

そしてハッと飛び起きる。

「シャオリー!起きたな!良かった〜〜!!」
「あ……ルフィ」

シャオリーはベッドの上にいて、すぐ隣にはルフィが座っていた。周りにはチョッパー、ウソップ、サンジの姿もある。

「大丈夫か? シャオリーが息してねェから、ルフィがずっと人工呼吸してくれてたんだぞ」
「おう!」
「ありがとう、ルフィ。 ここは?」
「シャオリーちん!目が覚めたんだね!」

元気な女の子の声がシャオリーを呼んだ。

「ケイミー!?」

そこはケイミーの家で、海で溺れるシャオリー達を助けてくれたらしい。

「他のみんなは逸れちまったみてェだ」
「そっか… でもみんななら大丈夫な気がする」

ケイミーがスープを振舞ってくれたので、シャオリー達はそれを頂く。

「じゃあ"魚人島"に着いたんだね?」
「ああ」
「ここは"人魚の入江"の海底で、『マーメイドカフェ』の女子寮なの。上に行けばいっぱいお友達いるよ!」
「マ、マ、マーメイドカフェ!?」

ケイミーの言葉にサンジが鼻息荒く反応した時、奥の部屋から小さな人魚達が洗濯物かごを持ってやって来た。

「洗濯物乾いたよ!」「乾いた!」「まだ乾いてない!」
「乾いたんじゃない!?」「乾いたから何!?」

メダカの人魚の五つ子だそうだ。海水で濡れたシャオリー達の服を乾かしてくれたようだ。

「(ちっちゃくて可愛い…)」

着替え終わると、ウミガメエレベーターに乗って海上まで行く。

「そういやハチとパッパグは?」
「はっちんは一年くらい前に大怪我をしちゃって…」
「サニー号を守ってくれてたんだよね」
「うん。『魚人街』で療養してて、もうほとんど良くなったって聞いたけど……」

「魚人街」とは、いわゆる無法者達が集まる場所らしい。

「パッパグは超有名デザイナーだから『ギョバリーヒルズ』におっきな屋敷を持ってるの。今日も蛤を届けに行くから一緒に行こう!」

片や超セレブ、片や無法者。ケイミー、パッパグ、ハチの3人の関係も不思議だ。
やがてウミガメエレベーターは海上に着いた。シャオリー達は岩やサンゴの上に降り立つ。

「おーい!ケイミー!」
「あ、みんな!」

すると、ケイミーを呼ぶ声がした。
声のした方を見れば、そこにはまさに「おとぎ話」と呼べる光景が広がっていた。
大小様々な色とりどりのサンゴ、光を受けてキラキラ光る海と青い空には虹がかかり、そして魚と戯れる美しい人魚達!

「ここがオールブルーだ〜〜〜〜〜!!!!!」

サンジが泣き叫ぶ。ルフィが「バラティエ出た時より泣いてんなァ」と冷静に突っ込んだ。

これぞまさに思い描いていた"魚人島"の光景だ。

「(これを見に来るのに2年もかかるとは…)」

次の島が魚人島だと知ったのは、ウォーターセブンに居た時だ。
あれからスリラーバーク、シャボンディ諸島、頂上戦争、そして2年間の修業を経て、ようやくここに辿り着いた。

「おれここに住む〜〜〜!!!」
「アハハ!サンジちゃん面白い〜!」

人魚達と戯れるサンジは、鼻血はなんとか抑えられたようで、いつものようにメロリンしていた。ウソップも人魚と一緒に泳いだり海に潜ったりしているが、泳げないシャオリー、ルフィ、チョッパーは足だけ海に浸かってパシャパシャする程度だ。

「なーケイミー。おれ魚人島で必ず会いてェ奴がいるんだ」

足で海水をバシャバシャ跳ねさせながらルフィが唐突に言った。

「誰? 人魚姫?」
「いや、ジンベエだ!!」

元七武海"海峡のジンベエ"。
戦争の後、ジンベエと別れる時に「魚人島で会おう」と約束をしていた。

「ジンベエ、どこにいる?」
「えーと…ジンベエ親分は、今この島にはいないの」

ジンベエは七武海を辞した身。
その為「魚人海賊団」の船員は島に残れず、全員魚人島を出ていってしまったらしい。

「え!? ジンベエいねェのか!?」
「話せば長くなるんだけど、あの戦争の後、この島にもいろいろ影響が出て……」

頂上戦争、そして白ひげの死は、世界のあちこちに様々な影響が出たようだ。

「「 ケイミー!! 」」

その時、メダカの五つ子が慌てた様子でやって来た。

「船が来るよ!」「来るかも!」「王国の船が来る!」
「誰も乗ってないかも」「乗ってるに決まってるでしょ!」

「王国の船?」
「偉い奴が乗ってんのか?」
「もしかしたら、不法入国したルフィちん達を捕まえに来たのかも!」

魚人島には正規の入国ルートがある。だがサニー号でシャボンを突き抜けてきたので、シャオリー達は魚人島に無理やり侵入した形になるのだ。

「隠れなきゃ!!」

ケイミーや人魚達が協力してくれて、シャオリー達は大きなサンゴの陰に身を潜める事にした。



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