07
最初は、ただの憧れだった。

"忍者になる"
そのことに真っ直ぐな文次郎に、私は憧れていたんだと思う。
だから、私はいつも文次郎を追いかけてた。

「戦忍になる?」

少しでも、追いつきたくて

「花、君は女の子なんだよ」
「だったら、男装して入学する。私、戦いたい……強くなりたいの」


少しでも、君に近付きたくて

───これは、花がまだ小さい頃の話。

花の故郷は、山奥の小さな農村だった。村人はみんな穏やかで、平和な村だった。

でもある時、この村が戦の場となった。戦の理由なんて知る由もない。突然兵が現れて、戦を始めた。
唯一わかっているのは、片方の城がツキヨタケ城ということだけ。
村はあっという間に火の海と化した。

"逃げなさい、花!"
"お父さん!お母さん!"

燃え盛る炎から、両親が助けてくれた。

"早く逃げて"
"やだ!一人はやだよ!"

両親と花の間には、炎の壁。お互いの姿は見えず、ただ母親の叫びが聞こえた。

"いきなさい!!!"

目の前が真っ赤になって、もう何もわからない。花は川辺の茂みに逃げ込み、戦が終わるまで震えていた。

何時間か…もしかしたら何日も経ったかもしれない。
真っ赤な炎が消え、誰の声もしなくなった。
そっと茂みから出て、花は村の方を見た。

「…あっ」

無くなっていた。
家も、畑も、大切な人たちも、
全部、消えていた。

「おい、そこで何をしている」

ふいに声がして、花の体がビクッと跳ねた。振り向くと、一人の忍者がいた。

「村の子供か……可哀相にな」

忍者は少し花を見つめ、隣にしゃがんだ。

「名前は?」
「…………花」
「食うか?腹減ってるだろ」

忍者はおにぎりを差し出す。空腹だったが、花は受け取らなかった。

「毒なんか入ってねぇよ。いいから一つ…な?」

強制的におにぎりを渡され、花はそっと一口食べた。

「どうだ?」
「………」

美味しい…

花は涙が零れそうになるのを堪えた。

「俺の女房のにぎりめし、うめぇだろ。なあ花、お前うちに来いよ」

花は忍者の顔をじっと見て、体を固くした。

「何怖がってんだよ。俺の息子もお前と同じくらいでさ、ほっとけねぇんだ」
「でも」
「いいんだよ」

忍者はニッと笑って、花の頭をポンポンと撫でた。
その大きな手の平は、とても温かかった。


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