18
光の真実を知ってから、一週間。
花はずっと光のことを見ていた。
とくに変わったことはない。やさしくて、明るくて、何事にも一生懸命ないつも通りの光だ。
花は確信した。

光には、学園長を暗殺する気はない。

証拠はない、保証もない、ただの勘だ。
だから、もし光が暗殺を実行しようとしたら、絶対に止めてみせると決めた。光ちゃんに、そんなことはさせない。

文次郎の笑顔を減らすようなことは、絶対にさせない…

***

「花〜〜〜〜? 次からは怪我しない程度にして、って言ったよね?」
「ご…ごめんなさい…」

お馴染みの保健室。ニッコリ笑っているのに黒いオーラを放っている伊作の前で、花は正座をして小さく縮こまった。
今日の花は打撲、突き指、擦り傷多数というボロボロの状態だった。一緒に組手をしていた小平太と長次も軽い擦り傷を作って、花の隣に座っている。

「二人も加減してよね。とくに小平太!」
「ええっ、私?でも花かなり強いんだぞ。それに手加減すると怒るし」
「本気でやってくれなきゃ鍛練にならないもん」
「花はそうやってすぐ無茶するんだから……はい、治療終わり」

保健室の戸が開いて、文次郎と光が入ってきた。

「伊作、光を診てやってくれ」
「今夜は怪我人が多いなあ…光ちゃん、どうしたの?」
「おばちゃんの手伝いをしていたんですが…包丁でちょっと指を切っただけなんですけど、文次郎が保健室行けってうるさくて」
「いや…包丁で切ったなら真っ直ぐに保健室来ようよ」

伊作は手早く光の指を手当てした。もう治療の終わった花は保健室を出ようとしたが、文次郎に腕をつかまれた。

「花、お前、どうしたんだよその怪我」
「鍛練してただけだよ」
「お前な…どうせまた無茶したんだろ。お前は女なんだから、少しはおとなしくしろよ」
「女なんて…」
「鍛練もいいが、ほどほどにしろよ」

ガシガシと、文次郎が頭を撫でる。文次郎の手は、相変わらず温かい。
でも、もう私にはその温もりを感じる資格もない。
私のものじゃないから。

「うん…」

花は俯いたまま、保健室を出ていった。とたとたと誰もいない廊下を歩く。

「(みんな、私に無茶するなって言う)」

女だから?
おとなしくしてなきゃいけないの?

文次郎に触れられた腕が、まだ熱い。

「(いっそ、男に生まれてきたかった)」

そうすれば、あなたを好きになることも

「(女を、捨てられたら)」

こんなに苦しい思いをすることもなかったのに


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