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光は、ツキヨタケのくノ一、そして姫君かもしれない。

花は、このことを誰にも話さなかった。真偽がわからないし、何より自分がまだ信じていなかった。

あの手紙を見た日から数日経っているが、光に変わった様子はない。ただ一つだけ、その日から光の簪が変わったこと以外は。

「(文次郎って、女の子に簪を買ってあげたりするんだ…)」

でも恋人だし、当然かな。
そういう自分も髪留めをもらい、今も使い続けている。

「(これ、外した方がいいのかな)」

新しいの、買おうかな…

最近、花は光ともあまり話さなくなった。あの手紙を読んでから、なんとなく声がかけづらい。
光は普通に話しかけてくるので、声をかけられれば話すのだが…

「(ただの嘘であってほしい)」

あれが真実で、もし文次郎が知ってしまったら……

花はなるべく光と顔を合わせずに済むように、夜は鍛練することが多くなった。長次と組手をしたり、小平太と一緒に走り回ったり、二人がいないときは一人で。
おかげで、花は保健室の常連になった。

「また?」
「あはは…」

伊作は呆れながら苦笑い。

「毎日すり傷作って…あんまり無茶しちゃダメだよ」
「このくらい大丈夫。すぐ治るもん」
「そういう問題じゃないよ」
「大丈夫だよ、こんな傷くらい」

重傷なのは、心の方だから。

「次からは気をつけてね」
「はーい。伊作、ありがとう」

保健室を出て、自分の部屋に向かう。もうすぐ夜明け、学園が一番静かになる時間。
どこからか光の声が聞こえた。

「………わかってる、わかってるよ。ちゃんと忍務は果たすから…!」

焦るような、怯えるような声。

「?」

花はその場ではたと立ち止まり、息を潜め気配を消す。
今度は知らない男の声がした。

「本当ですね?予定では、もう貴女様は城にお戻りになっているはずですよ」
「わかってるってば!ただ…少し時間がかかりそうなだけなの。だから、もうわざわざ会いに来たりしないで」
「………かしこまりました、姫様」

紺色の忍装束を着た男がどこからか出てきて、学園の塀を飛び越えていった。そして光も出てきた。光は塀の方を少し見つめ、やがて部屋の方へ歩いていった。

「(やっぱり…)」

やっぱりあの手紙は本当だった。

今の忍装束は、知ってる。月夜の空と同じ、紺色の装束。
ツキヨタケ忍者の装束だ。

「(本当、なんだ)」

光ちゃんはツキヨタケのくノ一で、お姫様なんだ。
そして、学園長の暗殺を企てている…

「(誰かに言うべきかな…)」

先生や学園長本人に伝えるべき?

「(光ちゃんを信じたい)」

彼女が入学して、もうすぐ二ヶ月。暗殺しようと思っているなら、とっくに実行しているはずだ。

「(本当は暗殺なんてしたくないんだ、と)」

この真実(こと)は、誰にも話さない方がいい。まだ、話しちゃダメだ。
そして…

「(文次郎は…文次郎には…)」

絶対に、知ってほしくない

「(文次郎だけには…)」

さっき手当てされたすり傷が、ズキズキと痛んだ

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