16
花は風呂に入って汚れを落とし、着替えてから食堂に向かった。
今日は休日。町に出かけてる忍たまが多いらしく、学園はいつもより静かだった。食堂には六年生以外、誰もいなかった。
「おはよう」
「あーっ、花!今までどこにいたんだよ!?」
「ちょっと…落とし穴に…」
「落とし穴!?花が!?」
「うん。それで、半日以上何も食べてないから…お腹すいて…」
フラフラと花は席に座る。
「花、戸部先生みたいだな」
「おばちゃんが出かける前におにぎり作ってくれたよ。寝坊した人用にって」
伊作が差し出すおにぎりを受け取り、もぐもぐと頬張る。
「じゃあ花はまたサボった、というわけか」
「わざとサボったわけじゃ…」
「結局誰も誘わなかったんだ?」
「うん。………文次郎と光ちゃんは?」
「二人は町に行ったぞ」
「そう…」
花はまたおにぎりをかじる。何とも言えない沈黙が流れた。
「なんか…少し遠く感じるよね」
伊作がポツリと言った。
「別に悪いことじゃないけど…」
「まさか文次郎に先を越されるとは思わなかったな」
花は黙々とおにぎりを食べ続けた。
「じゃあ光は合格したんだな?」
「だろうね」
「夜通しヤって、次の日は朝からデートとか」
「二人とも、すっごく仲良しだもんな!」
「仲良しっていうか…体力オバケというか」
おにぎりを食べ終えた花はゆっくり立ち上がった。
「花?」
「私、眠くて…部屋に戻るね」
「落とし穴の中じゃろくに寝れなかっただろうし、ゆっくり休んでね」
花は目をこすりながらとたとたと部屋に戻った。
「あれ…何これ?」
部屋の真ん中に、くしゃくしゃに丸めた紙が落ちていた。開くと、それは手紙のようだった。ほとんど暗号で読めない。
「なんだろ…」
暗号文の練習だろうか?恐らく光のものだろうと、花が光の机に手紙を置こうとしたとき…
「"暗殺"…?」
物騒な二文字が目に飛び込んできて、花はもう一度手紙を読む。手紙には、所々光の字で暗号の意味が記されていた。
"潜入" "学園長" "暗殺"
「なに…これ…」
学園長の暗殺?
光ちゃんが……?
そのために、忍者学園に潜入した?
これ、本物…?
差出人には、丸の中にキノコの絵。宛名には「光姫」の文字。
「この紋章…」
子供の時に見たことがある。
丸は満月。その中にキノコ…月夜に輝くキノコ。
『光…ひめ…?』
質の良い着物に、育ちの良さが伺える性格。
妙な時期の転入。
"そう"考えると、何もかも辻褄が合うように感じてしまう。
まさか…
花は唖然として、しばらくその手紙を見つめていた。
眠気は、すっかり覚めていた。
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