14
ある日、花と光はシナ先生に呼ばれ、くのたま長屋に向かった

「なんでしょうか…ちょっとこわいです…」
「大丈夫だよ」

花には、呼ばれた理由がなんとなくわかっていた。

「失礼します」

指定された部屋に入ると、他の六年のくのたまと若いシナ先生が二人を待っていた。

「これで全員集まったわね。実は、近い内に色技のテストをやろうと思って」
「(やっぱりか…)」

花は気づかれないように小さくため息をついた。

「色技のテスト?」
「今まで習ったことがきちんと実践できるかどうかを見るの」
「それって…」

頬を赤くするくのたまたち。つまり、実際に男の人の相手をしろ、ということだ。

「テストは明日の夜、くのたま長屋の部屋でそれぞれ行います。誰でもいいので、男性を一人連れてきなさい。教師と部外者を希望の場合は事前に申し出ること。合否もその人に決めてもらいます。わかりましたか?」
「「「はい」」」
「花、サボっちゃダメよ?」
「………はーい」

サボる気満々だったのに…

忍たま長屋に戻りながら、光がふいに聞いてきた。

「前にもサボったことあったんですか?」
「あー、うん。あんまり得意じゃなくて」

くノ一になりたいわけでもないし。

「……好きでもない男の相手なんて…」
「ということは、花さんは未経験なんですね」
「えっ、あ…うん」
「あはは、私もですよ。でも明日…」

光は顔を赤くして黙り込んでしまった。
光ちゃんは明日、文次郎を連れていくんだろうな。

「花さんは明日どうするんですか?」
「んー…なんとかしてサボれないかなぁ」
「もしあれなら、仙蔵さんとかに頼んで、実際に"やった"ことにしてもらうとか?」
「仙蔵に頼み事したら見返りに何を要求されるかわかんないから怖いな…」

誰かに頼むことは考えていない。
仙蔵ならいろいろと事情を知ってるから、協力はしてくれるかもしれないけど…

「(どうしよう)」

翌日
どこから漏れたのか、くノ一の色技のテストのことが学園中に噂として流れた。おそらく、くのたまが忍たまを誘ったのを他の忍たまが聞いてしまったのだろう。
そのためか、今日は男子も女子もそわそわして落ち着かない。

「(集中できない)」

花は、一日中ひそひそ話されるので少しイラついていた。花はもう誰かを誘ったのか、誰を誘うのか、もしくは俺を誘ってくれないかな、などなどだ。

「(あー、もう!)」

午後の実技の授業、いつもなら的を外すことはないのに、今日は手裏剣やら苦無やらがあちこちに飛んでいった。
授業終了の鐘が鳴り、各々片付けを始める。

「あれ…手裏剣が足りない」

手裏剣が一枚だけ足りない。
そういえば、さっき私があちこちに飛ばしちゃったから…

「(ちゃんと見つけないと留三郎に怒られるな)」

花は茂みの中を探すが手裏剣は見つからない。花はだんだんと人気のない方へ向かう。
空は既にオレンジ色に染まっていた。

「あっ、あった!」

ようやく手裏剣を見つけ、それを拾う。校舎裏にまで来ていた。

「こんなところまで飛んで……、ん?」

今、人の声がしたような…

気になって、花は声の聞こえた方を覗いた。

文次郎と光がいた。が、花はすぐに顔を引っ込めた。

「…!!!」

今…文次郎と光ちゃんが…

「(キ、キス…してた…!?)」

夕日を背に立っていたので逆光になり、影になってほとんど見えなかったけど、地面に映る二人の影は、一つに重なっている。

花の心臓が、ドキドキと大きく鼓動する。
二人に気づかれる前に、ここから離れなくちゃ…!

でも、足が動かない。

「(どうしよう…!!)」


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