13
休みが終わる前に花の引っ越しは完了した。新居は少し狭いが綺麗な家だった。

「ふう…」

ごろんと床に寝転がり、花は天井を見つめた。

私は、誰よりも文次郎に近い他人だった。
少なくとも、自分はそう思っていた。

お義父さんとお義母さんは、私を"娘"、文次郎は"家族"だと言ってくれた。

でも、だからこそ、私は文次郎から一番遠い存在だった。

近すぎるから、遠い

「遠い、なぁ…」

私はもう、文次郎の隣にいてはいけない
もう隣(そこ)は光ちゃんの場所だから

臨時休暇最終日
花は学園に戻るために家を出た。

「(一人で学園に行くの、初めて)」

入学したその日から、いつも文次郎と一緒だった。いつもはあっという間の道のりも、今日は長く感じる。
隣はもちろん、周りには誰もいない。

「(しょうがないよね)」

何もしなかった自分が悪いから…

学園に着いて六年長屋の廊下を歩いていると、部屋から小平太の声が聞こえた。

「いいなあ文次郎は!」
「小平太…?」

部屋には文次郎や光を含む全員が集合していた。

「おー、花おかえり!」
「ただいま。大声が聞こえたけど、どうしたの?」
「光を家に連れてったんだろう?こんな美人な彼女なら自慢になるよなー、って!」
「…そうだね」

花は文次郎と光の顔を見ずに、自分の部屋に戻った。荷物を下ろして床に座ると、後ろから仙蔵の声がした。

「家を出たらしいな」
「………私はもうあの家にはいられない。正直、つらいから」

花は自嘲的な笑いをこぼした。

「私、バカみたい…」

一人で想って、一人で苦しんで

「まあ…悪く言えば"未練がましい"」
「うっ」
「良く言えば"一途"だな」

一途…

「どんなに想っても、報われないのにね」
「たしかにそれは、つらくて苦しいことかもしれん。だが……私は尊敬するぞ」

!!?
せ、仙蔵が…私を尊敬する…!?

「どうしたの仙蔵、頭でも打った!?
あっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

仙蔵の顔を見て花は即座に謝った。

「一人の人間を想い続ける、ということは難しいからだ。時間が経てば経つほど、人の心は変わるからな」
「…!」
「花にはそれができる。私には…無理だろうな」

仙蔵らしからぬ言葉。

「だから、花は尊敬に値すると思ったのだ」

仙蔵なりの慰め。

「…………ありがとう」

仙蔵にはいつも励まされてるから、もっとお礼を言いたいけれど。

「ありがとう」

それ以上の言葉が見つからない。

とたとたと足音が聞こえ、光がやって来た。

「あ、仙蔵さん!さっき文次郎が探してましたよ」
「ああ、わかった」

仙蔵は自分の部屋へ戻っていった。

「(あ…光ちゃんも、名前呼び捨て)」

当然か。

「(遠くなっちゃったな…)」

文次郎はどんどん前に進んでいく
私はずっと立ち止まってる

"入学祝いだ"

あの日から

"女を捨てる必要はないんじゃねぇか?"

一歩も、進めないまま…


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