12
「明日から一週間、休みにする!」

学園長の突然の思いつきで、学園は明日から一週間休暇となった。
やったー!と喜ぶ声や、また教科書が進まない…という先生の嘆きを聞きながら、花はぼんやりと考えた。

「(休みかー…どうしようかな)」
「花、帰るぞ」

文次郎が至極当然というように言った。

「帰るの?」
「紹介してぇんだよ」

光をな、と文次郎は笑う。
そっか、お義父さんとお義母さんに…

「私も?」
「お前がいないとうるせぇんだよ。花はどうしたとか、なんで帰ってこねぇんだとか」
「そう… わかった」

よし、それなら。
花は決心した。文次郎と光が付き合い始めてから、ずっと考えていたことを。

翌日、花は文次郎や光と共に家へと向かった。一日あれば帰れる距離だ。
道中、花は二人から少し離れて歩いた。

「(もう、届かないんだな…)」

文次郎の後ろ姿を見て、花は思った。
追いかけてばかりだった背中は、もう追いつけないところまで行ってしまった…

日が傾いてきた頃、三人は家に着いた。

「き、緊張しますね…」
「大丈夫だ」
「お義父さん、お義母さん、ただいま」
「あれ、花?どうしたの?」
「臨時休暇で…」

花に続いて文次郎、そして光が家の中へ入った。

「その子は…?」
「光だ。あー、その…俺の大切な女(ひと)だ」
「光です。文次郎さんとお付き合いさせてもらってます」

光がペコリとお辞儀をするのを見て、両親は固まる。

「なんだよ?」
「いや…そうかそうか、文次郎もそんな歳になったんだな!」

両親は嬉しそうに笑い、文次郎と光は頬を染める。花は会話に加わらなくて済むように、お義母さんがやりかけていた夕食の準備を進めた。

夕食を終えて一段落したとき、花は思いきって切り出した。

「お義父さん、お義母さん、文次郎。話があるの」

花は膝の上でぎゅ、と拳を握る。

「私…この休みの間に、家を出ます」

沈黙。

「え…い、家を出る?」
「どうして」
「前から考えてたの。もう子供じゃないし、一人でもやっていけるから」
「なんでだよ?せめて卒業するまで…」
「もう、決めたことだから」

はっきりした花の声が、部屋に響いた。

「お義父さんとお義母さんには、本当に感謝しています」

ごめんなさい

「花…」

これは、私のわがまま

「お前が決めたことなら、仕方ないな」

これ以上あなたの近くにいると、私が堪えられないから…

夜も更け、みんなが寝静まると、花は外に出た。外には先客がいた。

「文次郎」
「なんだ、寝れねぇのか?」
「文次郎こそ」

文次郎の隣に立ち、花は空を見上げる。

「よかったね。光ちゃん、潮江家でやっていけそうで」

お義父さんとお義母さんは、光のことをとても気に入ったようだ。

「綺麗だねー」

星がキラキラと輝く。海の近くのためか、波の音が微かに聞こえる。
空を見上げる花の横顔を、文次郎はじっと見つめた。

「なあ…どうして急に家を出るなんて言い出したんだよ」
「前から考えてたって言ったでしょ」

花は空を見上げ続けた。

「いつかは家を出るんだし、遅いか早いかの違いだよ」

本当は、違うんだ

「それに…私、邪魔でしょ?彼氏の家に他の女が…しかも同級生がいるなんて嫌じゃん」
「当たり前じゃねぇか、家族だろ」

私が、離れたいだけ

「"家族"なら、同じ家に住んでなきゃいけないの?」
「………どうしても出てくんだな」
「私達、もう半分家を出てるようなもんだし。文次郎とは毎日会えるじゃん」
「親父もお袋も寂しがるぞ」
「光ちゃんがいる」
「そういう問題じゃ…!」
「ありがとう」

文次郎の言葉を遮り、花が言った。

「ありがとう、文次郎」

そう言い残し、花は家の中に入った。
文次郎は何も言わず、ただその後ろ姿を見つめるだけだった。


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