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文次郎と光が付き合っている、という噂はあっという間に学園中に広まった。
二人は一日中一緒にいるから、むしろ噂が広まらない方がおかしいのかもしれない。一日中一緒にいるといっても、人目を憚らずにイチャイチャするようなバカップルではない。
一緒にいたいだけ、そんな風に見える。
「男女がずっと一緒にいる光景って、忍術学園ではかなり貴重だよね」
「いいなあ、文次郎…」
「幸せそうだね」
文次郎のあんな顔、初めて見たよ。
「(光ちゃんが来てから、)」
私の知らない文次郎ばかり。
文次郎が、本当に光に惚れているのだと、改めて思い知らされる。
「(そういえば最近…)」
あんまり、文次郎と話さなくなったな。光ちゃんとは同室だからよく話すけど。
無意識の内に、避けてるのかな…
あまり近づかないように。少しずつ、距離をおいて。
「(バカだな、私)」
そうやって、自分を守ってる。
「……もそもそもそ……」
「ひあっ!?ちょ、長次!」
考えに集中していたからか長次の気配に気づかず、花は思わず叫んだ。
「…………(驚かせてすまない)」
「あ、ううん、私こそごめん。それで、どうしたの?」
「……もそもそ…」
「え、未返却の本?」
文次郎が例によって例のごとく、また本を返していないらしい。それを代わりに取ってきてほしい、とのこと。
「(なんで私が…)」
※たまたま花が近くにいただけ
花は文次郎の部屋の前に立つ。
「(ど、どうしよう…最近ずっと文次郎と喋ってないから…)」
まだ文次郎の顔、見れないのに
「(ちゃんと話せるといいな) も、文次郎…いる?」
「花か?入っていいぞ」
戸を開けて、中を覗く。
「あ、光ちゃん…」
文次郎は帳簿計算中で、その隣では光が寝ていた。
「さっきまで今日の復習をしていてな。疲れて寝ちまったんだ」
「そっか、おつかれさま。あ、あのね、長次が…」
「ああ、これか」
文次郎は本を5、6冊差し出した。
「悪いな」
「ううん」
本を受け取り、花は部屋を出ようとした。
「………」
花は入口の前で立ち止まり、振り向かずに言った。
「文次郎」
「ん?」
パチパチ、と算盤の音が響く。
「……ううん、なんでもない」
花は部屋を出た。
"文次郎は、今、幸せ?"
なんて、まだ聞けないや
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