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「え…今、なんて…?」

花は自分の耳を疑った。
目の前には、頬を赤く染めた文次郎と光がいる。花の隣では小平太がヒューヒューと冷やかし、食満は悔しそうな表情を見せていた。

週末の夜、花は光から「大事な話があるので」と言われ、文次郎と仙蔵の部屋に呼ばれた。他の六年生も集められ、一体何だろうと疑問に思っていると、文次郎が言った。

「俺と光は、付き合うことになった」

一瞬静かになる部屋、そして…

「ヒューヒュー!」

小平太が叫び、食満は「なんで文次郎なんだああああ」と嘆いた。そして、冒頭に至る。

「ほ、本当?」
「はい!」

光は嬉しそうに言った。

「ヒューヒュー!なあ長次、こういうときはヒューヒューって言うんだよな?」
「なんで文次郎が…こんな年齢詐称野郎に負けた…」
「おめでとう、二人とも!」
「………(おめでとう)」

みんなはそれぞれ思い思いの反応を示す。

「よかったね…よかったね…!」

花は、ただそれしか言えなかった。

泣くな…

「花さんのおかげですよ」
「え?」
「俺も光も、お前のおかげで一歩踏み出せたんだからな」

泣いちゃ、いけない

「わ、私なんて…大したことしてないよ」

もっと何か言いたいのに

「おめでとう」

言葉が、出てこない

「まさか文次郎を選ぶとは。光、本当にいいのか?こんなおっさんで」
「仙蔵てめぇ!」

嬉しい? 悲しい?

「外見より中身ですよ」
「文次郎は中身もどうかと思うぞ」
「留三郎てめえええ!」

私、今、ちゃんと笑えてるかな

文次郎と留三郎の喧嘩騒動の隙に、花はそっと廊下に出た。
満月ではないが、月が綺麗に輝いている。

「(綺麗だなー…)」

柱に寄り掛かり、空を見上げる。

「意外だったな」

いつの間にか仙蔵が隣にいた。

「光も文次郎のことを…な」
「うん」
「しかし、こう簡単にくっつくとは、つまらん」
「もう、仙蔵ってば」

花は笑うが、すぐに視線を床に落とした。

「私は…嬉しいよ。二人とも、幸せそうだから」

嬉しい、はず

「………だったら、その涙はなんだ?」
「え…」

静かに頬を伝う雫。
私、泣いてる…?

「う…嬉し涙…」


本当は、悲しいんだ

「ごめん…私、部屋に戻るね」

花は足早に部屋に戻った。

私には、泣く資格なんて無いのに

"泣いてたら、笑えないだろ"

あの日、私はもう泣かないと決めたのに

「(ずっと想っていればいつか報われる、なんて)」

気持ちは、伝えなきゃ伝わらない
伝えなかったのは、私

"好き"

たった2文字の言葉が、私にはどうしても言えなかった……


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