08
あの戦で生き残ったのは、花だけらしい。
花は、潮江家に引き取られることになった。お義母さんも、花のことを歓迎してくれた。

「息子の文次郎だよ」

お義父さんが紹介してくれたのは、一人の男の子。

「よろしくな、花!」

お義父さんとそっくりな笑顔
眩しい、笑顔
その笑顔が、花の目に焼き付いた。

潮江家での生活が始まる。
義父も義母も、花のことを本当の娘にように可愛がってくれたし、文次郎も兄弟のように接してくれた。
しかし、夜になるとどうしてもあの戦のことを思い出してしまう。
怖くて、寝られない。もうお父さんとお母さんに会えない、という事実を今更実感する。

気がつくと、花の両目からポロポロと涙がこぼれていた。

もう、会えないんだ
死んじゃったら…会えないんだ…

「ん………花…?」
「も、文次郎…」

目をこすりながら文次郎が起きてきた。

「寝れないのか?」
「だ、大丈夫!大丈夫だか、ら…もんじ、ろ…は…」

気にしないで、は言えなかった。
鼻の奥が痛くなって、喉がつまる。花がうつむくと、頭に温もりを感じた。
文次郎が花の頭を撫でていた。

「もんじろ…」
「泣くなよ」

文次郎の手、あったかい

「ひとりじゃない」

ぶっきらぼうだけど、

「泣いてたら、笑えないだろ」

文次郎なりのやさしさ

「うん…うん……ありがとう…」

このやさしさに、私はどれだけ救われただろう

「お義父さん、お義母さん。私、忍術学園に入学する」
「……そう言うと思ったよ」

九歳になった日、花はそう告げた。幼いなりに考えて出した結果だった。

「でも…くノ一じゃなくて、戦忍になる」
「戦忍に?」
「花、君は女の子なんだよ」
「だったら、男装して入学する。私、戦いたい…」

もう、失くしたくないんだ

「強くなりたいの」

みんなを守れるくらい、強く…

そして春、花と文次郎は忍術学園に入学した。
くのたまではなく忍たまとして勉強することは、学園長があっさりOKしてくれた。「ガッツじゃ!」の一言を添えて。

「本当にいいのか?」

その夜、文次郎が突然聞いてきた。

「戦忍になるなんてよ…いや、まあ花は強ぇし、なれるにはなれるだろうけど…」
「いいの、自分で決めたことだもん。覚悟はできてるつもり」

女を捨てる覚悟は……

「これ、やる」
「これ…髪留め?」

青いトンボ玉のような髪留めが二つ、花の手に渡された。

「入学祝いだ」
「えっ、私何も用意してないのに…!」
「別に、女を捨てる必要はないんじゃねぇか?」
「え…」
「だからよ、お前が女を捨てるのは…その…もったいない、と思う…ぞ……じ、じゃあなっ!」

文次郎はそそくさと自分の部屋に戻っていった。

「…………」

花はじっと髪留めを見つめ、ふっと笑った。

「文次郎のくせに」

あれから5年。青い髪留めは今も花の頭で輝いている。

気がつけば、私はいつも文次郎から元気をもらってる。

「(何か、お返しができたらいいのに)」

どんなにお返しをしても、足りないけれど。何か、何かできないだろうか。

「(あなたのために…)」

私にも、できることがあるならば


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