06
翌朝カレンは無事に退院し、早くハーマイオニーに会いたくて大広間へ向かった。
ハーマイオニーの姿を見つけると、カレンは駆け寄った。
「ハーマイオニ〜〜!」
「カレン!おかえりなさい!」
ぎゅう、とお互いを確認するように二人は抱きしめあった。
「みんな心配してたわ」
「あっ、カレン!」
「退院したんだね、おめでとう」
ハリーとロンだ。ハリーは箒を持っていた。
「それ、どうしたの?」
「ニンバス2000だよ。今ヘドウィグが運んできて…」
「ハリーは、グリフィンドールのクィディッチチームに入れてもらったんだ」
「えっ、おめでとう!」
それからカレンは、三人から昨夜の出来事を聞いた。ドラコに嵌められて立ち入り禁止の廊下へ行ってしまい、そこで三頭犬と遭遇。そして、その犬が隠し扉を守っていたのを見たという。
何かを守るために、怪物を学校に置いておくなんて…下手したら誰かが怪物に襲われかねない。だから立ち入り禁止なのだろうけど。
それとも、怪物に守備を任せるのは魔法界では普通のことなのだろうか?
「(私は頭が悪いから、難しいことはよくわからないけど)」
なんだか、嫌な予感がする…
***
10月31日、ハロウィーン。今日は朝からほのかにかぼちゃの甘い匂いがして、カレンの気分は高揚した。
今日の「妖精の呪文」では、物を飛ばす呪文の練習をした。ヒューン、ヒョイ、という杖の動きに合わせて「ウィンガーディアム レヴィオーサ」と唱えるだけなのだが、これがなかなか難しい。やはり、呪文を成功させたのはハーマイオニーしかいなかった。
授業終了の鐘が鳴り、カレンはトイレに行った。トイレを出ると、待っていると思っていたハーマイオニーがいなかった。
「(先に教室に行ったのかな?)」
次は「闇の魔術に対する防衛術」だ。カレンは教室に向かった。しかし、ハーマイオニーの姿は見当たらなかった。トイレかな、とカレンは深く考えずにハーマイオニーを待ったが、授業が始まってもハーマイオニーは来なかった。
結局、授業が終わるまでハーマイオニーは姿を見せなかった。
「(どうしたんだろう…?)」
授業をサボるなんてハーマイオニーらしくない。もしかして医務室か?カレンはそう思って医務室に行ったが、誰もいなかった。
ハーマイオニーがいない…それはカレンをとても不安な気持ちにさせた。財布を無くしたり、自宅の鍵を落としてしまったときの不安感に似ていた。
「(どこに行っちゃったんだろう…)」
カレンはあちこち走り回り、思いつくところを全て探した。寝室や談話室、大広間、図書室、校庭……しかしハーマイオニーはどこにもいなかった。夕食の時間になっても、カレンはハーマイオニーを見つけられないでいた。そのとき、パーバティとラベンダーが話しているのが聞こえた。
「大丈夫かなあ、ハーマイオニー」
「トイレからずっと出てこないわね…」
「もう何時間泣いてるのかしら」
出てこない…泣いてる?
カレンは二人から話を聞いて、そのトイレへと走っていった。1つだけ個室が閉まっている…ここだ。
「ハーマイオニー」
カレンがそっと呼びかけると泣き声が止み、中から小さく弱い声が返ってきた。
「……カレン…?」
「どうしたの?何かあったの?」
カレンが尋ねるが、ハーマイオニーは何も話さない。
「こんなところにいないで、大広間に行こう?みんなも心配してるよ」
「……………」
「ねえ、ハーマイオニー」
「………私に…構わないで」
「え、」
言葉の意味がわからず、カレンは固まった。
「私のことなんか放っといて…さっさと大広間に行けばいいじゃない…」
「ハーマイオニー?」
「カレンは…私のことなんて、どうでもいいんでしょう?私がつきまとうから…だから仕方なく私と一緒にいるんでしょ…?」
想像もしていなかったハーマイオニーの言葉に、カレンは衝撃を受けて頭が真っ白になった。
「ここに来たのも…みんなに言われて仕方なく……」
バアンッッ!!
カレンは個室の戸を思いきり叩いた。ひっ、とハーマイオニーが小さく悲鳴を上げた。
「なにそれ…ハーマイオニーのことはどうでもいいとか、仕方なく一緒にいるとか…
ハーマイオニーは私のことをそんな風に思ってたの?」
「え…」
「ハーマイオニーが友達じゃない…?友達じゃなかったら、ここには来ない!あんなに必死になって探したりしない!こんなに心配したりしない!
ハーマイオニーは私の大切な親友だから!」
カレンの拳がかすかに震えた。
「だから、もう二度とそんなこと言わないで…」
戸がゆっくりと開き、目を真っ赤にしたハーマイオニーが出てきた。
「ハーマイオニー…!」
「カレン…ごめん…ごめんなさい…」
カレンはハーマイオニーを抱きしめた。
「次、また同じこと言ったら絶交だからね」
「……ありがとう…」
カレンは体を離し、笑顔を見せた。
「一緒に大広間に行こう。お菓子、いっぱいあるよ」
「ええ」
そして二人でトイレを出ようとしたときだった。目の前に、一匹のトロールが立ち、二人を見下ろしていた。トロールは棍棒を振り回し、個室を破壊していった。
「きゃああああっ!!」
ハーマイオニーが悲鳴を上げた。飛び散る破片を避け、カレンは恐怖にすくむハーマイオニーを引っ張ってトロールから遠ざかった。
そのときハリーとロンがトイレに駆け込んできた。
「カレン!ハーマイオニー!」
「おい!こっちだ、のろま!」
ハリーとロンは瓦礫を投げてトロールの注意を引いた。怒ったトロールが振り回した棍棒にハリーが飛び乗り、そのままトロールの首にしがみついた。ロンが杖を取り出して叫んだ。
「ウィンガーディアム レヴィオーサ!」
棍棒が宙に浮き、そしてトロールの頭に落ちた。トロールは気絶して、倒れて動かなくなった。
「怪我は?」
ハーマイオニーは首を小さく横に振った。
「よかった…」
バタバタと足音が聞こえ、マクゴナガル先生、スネイプ先生、クィレル先生がトイレに飛び込んできた。
「まあ、これは一体……あなたたち、これはどういうことなんですか!」
「えっと、そのー…つまり…」
「私のせいなんです、先生」
口ごもるハリーとロンを遮り、ハーマイオニーがはっきりと言った。
「私がトロールを探しに来たんです。本で読んだから、倒せると思って…」
ロンが杖をぽろりと落とした。カレンも驚いてハーマイオニーを見た。
「でも三人が来てくれなかったら…私は今頃、死んでいました。もう誰かを呼ぶ時間も無かったんです」
「まあ、そういうことでしたら…」
マクゴナガル先生はグリフィンドールから5点減点し、ハーマイオニーを先に帰した。
「あなたたちは運がよかった。野生のトロールに遭遇して、生きて帰れる者はそういないでしょう。一人5点ずつ差し上げましょう…その幸運に対してです」
カレン、ハリー、ロンは談話室へ戻った。扉のそばで、ハーマイオニーが三人を待っていた。四人は同時に「ありがとう」と言い、そして同時に笑った。それから、四人はとても仲良しになった。
カレンは、目には見えない糸のようなものが四人を繋いでいるような気がした。
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