02
カレンはドラコに手に引かれて「夜の闇横丁」を抜けた。
二人は、日がさんさんと降り注ぐ通りへ出た。「夜の闇」とは正反対で、明るく活気があり、大勢の人で賑わっていた。ここがダイアゴン横丁らしい。
洋服店の前で、蒼白な顔をしたシンシアが立っていた。隣にはドラコにそっくりな男性と、美しい女性もいた。ドラコの両親だろう。

「カレン!ああ、良かった…!」

カレンの姿を見るなり、シンシアは娘を抱きしめた。

「どこに行っちゃったのかと…本当に良かった…!」

シンシアは今にも泣き出しそうだった。

「ごめん…ごめんね、お母さん」

母にこんなにも心配をかけてしまった悲しみと、母がこんなにも心配してくれた嬉しさが混ざって、カレンは複雑な気持ちになった。カレンがシンシアの腕から解放されると、ドラコの父親が手を差し出してきた。

「ご無事でよかった。私はルシウス・マルフォイです。こちらは妻のナルシッサ。以後お見知りおきを」

丁寧な物言いにカレンは少し驚いたが、ルシウス、ナルシッサと握手をした。シンシアがダイアゴン横丁に着いたときカレンの姿はなく、ちょうどマルフォイ一家と会い、一緒に捜してくれていたらしい。
いろいろな人に心配と迷惑をかけてしまったので、カレンは、次はきちんと目的地に着くようにしようと誓った。

「さて、買う物をさっさと買っちゃいましょう!」

シンシアは買い物リストと広げた。

「切り替え早っ」
「こういうのはちゃっちゃと済ませないとね。カレンはローブを買ってきて。私は教科書を買ってくるから」
「ドラコ、あなたもローブを買いなさい」

母親二人がそう言うので、カレンとドラコは目の前の「マダム・マルキンの洋装店」に入った。店は他に客はおらず、店主のマダム・マルキンが二人を見るなりてきぱきと動き始めた。

「ホグワーツだね?君はここに立って。女の子はこっちだよ」

カレンは店の奥に引っ張られていかれ、ローブやスカートの丈を合わせ、制服一式を買った。
ドラコのところへ戻ると、もう一人男の子がいるのに気付いた。黒いくしゃくしゃの髪に、眼鏡をかけた少年だ。

「カレン、終わったかい?」
「うん。………友達?」

カレンは眼鏡の少年の方を見て、ドラコに聞いた。

「今知り合ったばかりさ。僕たちと同い年らしい」
「え、ほんと!あ、あのっ、こんにちは」

カレンは少年に声をかけた。

「カレン・ルーチェっていいます。私も今年からホグワーツなの」
「僕はハリー。君と同い年なんて、すごく嬉しいよ!よろしくね、カレン」

笑い合う二人を見たドラコは少しムッとして、カレンの手を引いた。

「もう用は済んだだろう?行くぞ」
「え?あ、ちょっ…」

半ば強引に店の外に出されたカレンは、何か聞きたそうな顔をしてドラコを見た。しかしカレンが口を開く前にシンシアたちが戻ってきた。

「買えた?」
「うん」
「それなら次は杖を買わなくちゃね」
「シンシア、私たちはもう買い物が終わったからそろそろ帰るわ」
「カレン、また9月1日に会おう」
「うん、またね」

マルフォイ一家は通りを歩いていき、カレンとシンシアは「オリバンダーの店」に向かった。

「杖ならここが一番よ。…………あっ」

突然シンシアが声を上げた。

「買い忘れてたものがあったわ!今から買ってくるから、カレンは杖を買ってね」

そう言ってシンシアは人混みの中に消えた。カレンは店の中に入った。

「いらっしゃいませ」

柔らかい声がして、オリバンダー老人が現れた。

「おお、そうじゃそうじゃ。ルーチェさんだね?」

オリバンダー老人は、白く細長い箱を持ってきた。中には白い杖が入っていた。

「珍しいじゃろう?普段は使わない白樺の木を使っておる。芯には白孔雀の尾羽根じゃ」

カレンはその杖を手に取った。すると風が吹いたように髪が揺れ、身体中が熱くなった。杖が、喜んで震えた気がした。

「やはり…」

オリバンダーは呟く。

「この杖はあなたを待っていたのじゃな。この杖を作ったのは11年前の12月…そう、あなたが生まれたのと同じ時期に作られたのじゃ。ほんの気紛れで作った白い杖なのじゃが…不思議じゃ」

私を待っていた…11年も、ずっと。世界にたった一つの、白い杖。
カレンはその杖を買い、店を出た。杖は、ポケットの中でまだ温かかった。
シンシアが、何か大きな物を持って待っていた。

「杖は買えた?」
「うん。それ、何?」
「私からの入学祝いよ。ホグワーツ入学おめでとう、カレン!」

それはふくろうだった。真っ黒な羽に金色の目をしている。まるで黒猫のようだ。

「わあ、かっこいい!ありがとう、お母さん!」

買い物が全て終わったので、カレンとシンシアは帰宅した。今度はきちんと発音できたので無事に家に着いたが、カレンはこの移動法はあまり好きになれなさそうだと思った。

杖、ローブ、ふくろう、教科書、大鍋…
それらを部屋に並べてカレンはにっこりした。

9月1日まで、あと一ヶ月だ。

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