08
クリスマスが迫っていた。
クリスマス休暇は、カレンは家に帰ることにしていた。ハーマイオニーも帰るようだが、ハリーとロンはホグワーツに残るそうだ。ニコラス・フラメルの捜査をしばらく二人に任せ、カレンとハーマイオニーは汽車に乗った。
車内販売のおばさんが二人のコンパートメントを通りすぎるのと入れ違いに、ドラコ・マルフォイがやって来た。一緒に、腰巾着のクラッブとゴイル、そしてパグ顔のパンジー・パーキンソンもいた。

「ポッターとウィーズリーは居残りか…家族に帰ってくるなとでも言われたのかい?可哀想だねぇ」
「余計なお世話、よ」

睨み合うドラコとハーマイオニー越しに、カレンは他の客を見た。ゴリラの子供のようなクラッブとゴイルに、パグ顔をにやにやさせるパンジー。

「(スリザリンって動物園だっけ?)」
「呼んでもいないのに来るなんて迷惑だわ。早く出てってちょうだい」
「お前なんかに用は無い。僕はカレンに用があるんだ。カレン、ちょっといいかい?」

ドラコに腕を引かれてカレンはコンパートメントを出た。ハーマイオニーは三匹の動物に絡まれている。
ドラコは白い封筒を差し出す。とりあえずカレンは受け取った。

「これ、何?」
「招待状だよ。クリスマスに僕の家でパーティーを開くんだ。カレンにも来てほしくてね」

カレンは驚いてドラコを見上げた。

「グレンジャーには何も言わないでほしいんだ。それじゃあ、クリスマスに待ってるよ」

ドラコはそう言って笑うと、三匹の動物…もといクラッブ、ゴイル、パンジーを呼んでコンパートメントを出ていった。

「やっと帰ったわ。スリザリンって本当いやな人たちばっかり!」

プリプリ怒るハーマイオニーに気付かれないように、カレンは招待状をポケットにしまった。
汽車がキングズ・クロス駅に到着し、カレンは久しぶりに母との再会を果たした。ハーマイオニーと別れ、家に帰ると早速カレンは招待状のことをシンシアに話した。

「私もルシウスから話を聞いてるの。カレンもぜひご一緒に、だって」
「ほ、本当に行くの…?」
「あら、行きたくないの?」

カレンは複雑だった。パーティーそのものには行ってみたい…しかし相手は、マグルや半純血の人を見下しているような人たちだ。

「まあカレンに拒否権は無いけど」
「えっ?」
「だってもう、行くってルシウスに返事したもの」
「………そうですか…」

結局、カレンはマルフォイ家のクリスマスパーティーへ行くことになった。
クリスマスの朝。カレンが、枕元に山積みにされたクリスマスプレゼントを開けていると、1つの箱に目が止まった。金色の包装紙で包んであるそれは、ドラコからだった。中には、銀色の小さなティアラが入っていた。

「綺麗…」

でも、なんでティアラ?

「それはやっぱり、今夜これをつけてこいってことでしょう」

シンシアに聞くと、そう答えが返ってきた。

「なるほど。あ、でも私ドレス持ってない…」
「ナルシッサに頼んであるから大丈夫よ」

夕方、カレンはシンシアの「付き添い姿くらまし」でマルフォイの館へと向かった。狭い馬車道の向こうに大きな豪邸が見えた。あれがドラコの家か…
玄関で、マルフォイ家の三人がカレンとシンシアを出迎えてくれた。玄関ホールの高い天井にはシャンデリアが輝いていた。

「メリークリスマス、カレン」
「メリークリスマス、ドラコ…」
「カレンちゃんに素敵なドレスを用意したわ。シンシアも一緒に見てちょうだい」

ドレスルームに行くと、色とりどりのドレスがたくさん並んでいた。

「シンシアは好きなのを選んで。カレンちゃんにはこれよ」

ナルシッサが持ってきたのは、青と水色のドレスだった。

「(すごく…見たことある…)」

それでもティアラにはとてもよく合いそうだ。

「あら、よく似合うじゃない」

ドレスを着てティアラもつけ、少しメイクもしたりして。初めてのことにカレンはドキドキした。

「ガラスの靴もカボチャの馬車も無いけど、王子様がいるから大丈夫ね」
「素敵な夜を、シンデレラ」

二人の母親はそう言って笑い、ドレスルームを出ていった。

「(王子様って…まさか…)」

カレンは無性に帰りたくなったがそれが叶うはずもなく、なるべくゆっくりと部屋を出てダンスホールへと歩いた。
ホールにはたくさんの人が集まっていた。きっと魔法省のお偉いさんやお金持ちの貴族なんかが来ているのだろう。ホールの入り口でドラコが待っていた。

「こ、こんばんは…」

カレンは緊張気味に挨拶した。ドラコは、カレンの姿を見て満足げに微笑んだ。

「綺麗だよ」
「あ…ありがとう…」

ドラコが手を差し出したので、カレンはその手を取った。ドラコはそのままホールの中心へと歩いていった。頭上の豪華なシャンデリアに照らされ、ティアラがキラキラと輝いた。腰に手を回され、カレンは一気にドラコに引き寄せられた。

「わ、私…ダンスなんて初めてで…」
「僕がリードする」

曲が始まり、ドラコのリードで二人は踊り始めた。
緊張はしてるけど、

「(悪くない…かも)」

そこでカレンはハッとして、今の考えを振り払った。

何考えてるんだろう、私。この人は…きっとここにいるほとんどの人は、マグル生まれや半純血の人たちを嫌い、蔑んでいるというのに。

「(………でも、)」

二人きりでいるとき、ドラコがそういった類いの悪口を言わないのは確かだ。

「(わからない…)」

曲が終わり、カレンはほっとして息をついた。

「初めてにしては上出来だったな」
「ほんと?よかったー…」
「あの…もしよろしければうちの娘と一曲…」

知らない女性がドラコに声をかけた。後ろには金髪の可愛い女の子が立っている。カレンはそっとその場を離れ、窓のそばへ行った。ふと上を見ると、ヤドリギが輝いていた。
再び曲が始まり、カレンは踊っている人たちをぼんやりと眺めた。シンシアはルシウスと踊っている。ドラコと金髪の美少女はとても絵になっていて、果たして自分がドラコと一番に踊って良かったのかと、カレンは不安になった。

「(………あ、)」

窓の外では雪が降っていた。ホワイトクリスマスだ。

「(綺麗…)」

カレンは、しんしんと降る雪を、いつまでも見つめていた。
雪は、やがて世界を白銀に染めた。

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