03
シャンクスが左腕を失くした。
ルフィを連れた山賊は、海に逃れた。しかし海王類に襲われ、間一髪のところでシャンクスがルフィを救ったのだという。
シャンクスは笑う。友達を失うことに比べたら、片腕くらい安いものだ、と。
「おいルフィ、いつまで泣いてるんだ?」
「だ、だっで…ジャングズゥゥ〜」
「しっかりしろよ、男だろ」
レッド・フォース号の医務室。ベッドに座るシャンクスに抱きついて、ルフィは顔から出るもの全部を出していた。
シャオリーは、医務室の出口に立って、二人のことをただ見ていた。
「気にするなっつったろ」
「うっ…う゛ぅぅ…!」
「ったく」
シャンクスは、仕方ねェなと笑ってルフィの頭を撫でた。
「(すごいなあ)」
シャオリーは、ただその笑顔を見つめた。
自分がどんなに傷付いても、誰かを守れるような人
自分がどんなに傷付いても、誰かの無事を喜べるような人
「(私にも、できるかな)」
そんな人に、私も、なれるかなあ…
***
「この船出で、もうこの町には帰ってこないって本当!?」
「じゃあ…お別れ?」
「ああ」
ルフィとシャオリーの問いに、シャンクスは短く答えた。
彼らは海賊。いつまでも一緒に、なんて事ができないことはわかっていた。いつかは別れなければならないと、わかっていた。
それでも、
「また会える?」
「そうだな…シャオリーが望めば、会えるかもしれねェな」
「シャオリーも、おれと一緒に海賊になれば会いに行けるぞ!」
「お前なんかが海賊になれるか!」
シャンクスは悪戯っぽく笑って言う。すると、ルフィはムキになって答えた。
「なる!!
おれは、いつかこの一味にも負けない仲間を集めて!世界一の財宝見つけて!
海賊王になってやる!!!」
ルフィの声が、響く。
ベンや船員たちは、にやりと口角を上げた。
「ほう…!おれ達を越えるのか。じゃあ、」
シャンクスは麦わら帽子を脱ぎ、
「この帽子を、お前に預ける」
ルフィにかぶせた。
「おれの大切な帽子だ」
ルフィの頬を、涙が伝った。
「いつかきっと返しに来い。立派な海賊になってな」
シャンクスは、ゆっくりと船に向かって歩いていった。
風が、シャオリーの髪を撫でた。
「錨を上げろォ!帆をはれ!出発だ!!」
海賊船レッド・フォース号は、ゆっくりと港を離れていく。
泣き続けるルフィの手にそっと触れると、ぎゅっと握り返された。
船は、どんどんと小さくなっていく。
「いつか、きっと…」
確かめるように、心に刻むように、シャオリーはそっと呟いた。
***
シャオリーは、同じ場所から海を見つめていた。
10年前、ここで誓った約束を思い出しながら。
シャオリーの周りには、村人たちが集まっていた。
「二人でボートって狭くねェか?」
「うちの古い漁船、使えよ!」
「いいんだ、これで!ここから始めるんだ、おれ達は。なっ、シャオリー」
「うんっ」
シャオリーはぴょんと跳ねて、ルフィの乗るボートに飛び降りた。
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
「フン…!」
シャオリーが挨拶すると、マキノは笑顔で、村長は相変わらずしかめっ面で応えた。
「んじゃ、行くか!」
村人たちに見送られ、二人を乗せたボートはゆっくり沖へと動き出す。ルフィがオールを握り、シャオリーは村人達に向かって手を振った。
「うわっ」
急に波が荒くなり、行く手に現れた近海の主。鋭い目でこちらを睨む。
「わっ、わっ」
「シャオリー、しっかり船に掴まってろ!ゴムゴムの……銃!!!」
ルフィの右拳がヒットし、近海の主は大きく宙を舞った。そして、大きな飛沫と波を生んで海に落ちていった。
「うわあ、ルフィすごい!」
「しししっ。よっしゃ、いくぞ!!」
ぐっと両腕を天に突き出し、ルフィは叫んだ。
「海賊王に、おれはなる!!!」
どこまでも遠くに、どこまでも深くに届くように。
シャオリーは空を見上げた。
脳裏には、二人の兄と母、そしてシャンクスの顔が浮かんでくる。
「(いってきます。待っててね)」
小さなボートは、大海原を行く。
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