02
「ゴムゴムの実?」
「ああ。ほら見ろ!」

ルフィは自らの頬をつまんで、びよーんと横に伸ばした。確かに、常人ではあり得ない。まさに、ゴム。
シャンクス達が敵船から奪った"ゴムゴムの実"を、ルフィが誤って食べてしまったらしい。ルフィは楽しそうに、自分の身体のあちこちをつまんでは伸ばして遊んでいる。しかし、シャオリーは笑えなかった。

「わ、笑ってる場合じゃないってば!ルフィ…能力者になっちゃったんだよ…?」
「能力者?」
「悪魔の実を食べた人のこと」

悪魔の実を食す。強大な力を得る代わりに、その者は呪われた身となる。
ルフィにだけは、そうなってほしくなかったのに…!

「そんな暗ェ顔すんなって」
「し、心配してるんだよ。だって…」
「これでシャオリーと同じだな!」
「!」

シャオリーも能力者だ。ヒトヒトの実 モデル"天使"。シャオリーが実を食べたのは、ルフィと出会う前のこと。
しかし、シャオリーはまだ自身の能力をコントロールしきれていなかった。

「だーいじょうぶだって!おれと一緒に修業して鍛えよう!」

ルフィは笑って、シャオリーの背中をぱんぱん叩いた。

ルフィの笑顔は太陽だ、とシャオリーは思う。暖かくて、眩しくて。
この笑顔に、どれだけ救われただろう。そして、今も。
ルフィに笑顔でそう言われると、本当に大丈夫だと思えてしまうから、不思議だ。

「私も…強くなれるかな…?」
「なれるさ!一緒に強くなるぞ!」
「……! うんっ」

ルフィと一緒なら、私も強くなれるかもしれない。
太陽のような笑顔には負けるけど、シャオリーも笑顔で応えた。

***

シャンクス達が新たな航海に出て、随分経った。

「次はいつ帰ってくるのかなぁ…」
「お前もそんなこと言っとるのか、シャオリー!お前もルフィも、絶対海賊になんかならせんぞ!」
「私、海賊になりたいなんて言ってないよ」
「顔に書いてあるわい。わしは絶対許さんぞ!ましてや女の子が…」

村長はズズズ、とお茶をすする。海賊って、そんなに悪いものなのかな…夢があって、良いと思うのに。
その時、誰かが走ってくる音がして、玄関が勢い良く開かれた。息を切らしたマキノが立っている。

「村長さん!シャオリー!大変っ」
「どうしたんじゃ、マキノ」
「ルフィが…山賊達に…!」

マキノから話を聞き、三人は急いで家を飛び出した。

***

「足をどけろ!!バカ山賊っ!!」

大勢の山賊に囲まれ、ルフィはリーダーの男に頭を踏みつけられて身動きが取れない状況だった。

「その子を放してくれ!!」

村長が叫ぶと、山賊達がギロリとこちらを睨んだ。思わず、シャオリーはマキノの後ろに隠れる。

「あんた達と争う気はない。失礼でなければ金は払う!その子を助けてくれ!!」

村長は土下座をして、山賊に訴える。しかし、

「駄目だ!こいつは助からねェ。なんせ、このおれを怒らせたんだからな…!!
見世物小屋に売り飛ばしてやる。一生狭い檻の中で過ごしな」
「悪いのはお前らだ!山猿!!」
「………よし、売り飛ばすのは止めだ。やっぱり殺しちまおう」

スラリと抜かれた剣。鈍く光る銀色に、シャオリーの心臓は嫌な跳ね方をした。

「やっ、」

ルフィが、死ぬ なんて

「やめてっ!!」

ぶわっ、とシャオリーの背から白い翼が生えた。同時に、強風が竜巻のように吹き荒れる。

「!? なんだ?」
「は、羽が生えた…!!」

山賊たちは驚きと焦りでどよめく。ルフィ、マキノ、村長は「まずい」と言わんばかりの表情をしていた。
シャオリーはその場に座り込み、両目をきつくつむって、耳をふさぐように頭を押さえている。

「ルフィ…ル、フィ…!!」
「ッ、シャオリー!おれは平気だぞ!」

ルフィの叫び声も、今のシャオリーには届かないらしい。
風に乗って、無数の白い羽が矢のように飛び回った。それは見えないナイフのように、傷を作っていく。

「いてっ!」
「なんだ、羽!?」
「は、速すぎて見えねェぞ!!」
「シャオリー!やめなさい!」

マキノが、暴走を止めようとシャオリーに近付こうとしたが、風に煽られてなかなか近付けなかった。

「どうしよう…!」

そのとき、マキノの視界を黒いマントが横切った。その人物は、強風も飛び交う羽も物ともせず、シャオリーのところへ歩いていった。

「しっかりしろ。自分の力に負ける程、お前は弱くないだろう…シャオリー」

シャンクスがシャオリーを抱きしめた。まるで、親が子を抱きしめるように。

「……!」

シャオリーはハッとして両目を開けた。目の前に、シャンクスの白いシャツが見える。シャンクスの声と、匂いと、温もりも感じる。
羽が止み、少しずつ風が弱まっていくのを確認すると、シャンクスは少し身体を離して、シャオリーの頭を撫でた。

「大丈夫だ。……な?」

シャオリーの体から一気に力が抜けた。風が止み、背中の翼も消えた。

「………チッ」

山賊のリーダーが煙幕を投げた。煙が晴れると、リーダーとルフィの姿が無くなっていた。

「しまった!ルフィが!」
「ルフィ…!」
「み、みんなで探すぞ!!シャオリー、お前はマキノさんと一緒にいろ」

シャオリーをマキノに預けると、シャンクスたちはルフィを探しにバラバラに散った。

「(また…)」

抱きしめてくれるマキノの腕に、シャオリーは顔を埋めた。

また、
人を傷つけてしまった……


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