13
「無謀だわ」
海のど真ん中で、ナミが告げた。
「何が?」
「このまま"偉大なる航路"に入ることが!船員の頭数にしても、この船の装備の無さにしても、とても無事でいられるとは思えない」
「そうだよね、もっといっぱい仲間がほしいなー」
「あとしっかりした船ね。ここから少し南に行けば村があるわ」
ナミの指示で、一向はその村へと到着した。
「この奥に、小さいけど村があるみたい」
「面白ェヤツいるかなァ。音楽家だといいな」
「ところで…あいつら何だ」
ゾロが指差す先には、丸太の陰からこちらを覗いている顔が4つ。その内3人は子供だった。
「うわあああ見つかったァ〜っ!!」
ゾロの眼力にやられたのか、元々臆病な性格なのか、3人の子供は脱兎のごとく逃げていった。一人残された長っ鼻の少年は、シャオリーやルフィとそう変わらない年のようだ。
鼻が長い、ってことは……
「ピノキオって本当にいるんだー!」
「ピノキオじゃねーし!」
シャオリーが叫ぶと、ビシッとツッコミが返ってきた。
「おれはこの村に君臨する大海賊団を率いるウソップ!この村を攻めようと考えているならやめておけ!おれの8000万人の部下が黙っちゃいない!!」
「嘘でしょ」
「ゲッ、ばれた!!」
「鼻の長い人はみんな嘘つきなんだよ」
「えっ、じゃあ象も嘘つきなのか?」
「うん」
「んなワケねェだろ」
「じゃ、じゃあ天狗は!?」
「はいはい、天狗も嘘つきよ。とりあえず食事にしましょ」
***
「仲間とでかい船か!はーっ、そりゃ大冒険だな!!」
村のご飯屋で、シャオリーたちはこの村へ来た経緯をウソップに話した。
「この村で船を持ってるとしたら、あそこしかねェな」
「あそこって?」
「この村に場違いな大富豪の屋敷が一軒建ってる。その主だ。まァ主っつっても、病弱で寝たきりの少女だけどな……病気で両親を失っちまったのさ」
「………そんな人に、船くださいって頼みづらいんだけど」
「そうね、やめましょ!別の村で船を探せばいいわ」
シャオリーとナミが言うと、ルフィも賛同した。急ぐ旅でもないので、構わない。
「ところでお前ら、仲間を探してると言ったな」
「うん。誰かいるのか?」
ウソップが背筋を正すので、シャオリーは期待顔で彼の言葉を待った。
「おれが船長になってやってもいいぜ」
「「ごめんなさい」」
「はえェなおい!!」
なんだ、違った…
***
「お、そろそろ時間だな」
「どうした?」
「ちょっと行くところがあるんだ」
そう言うと、ウソップは店を出ていった。
「どこ行ったんだ?」
「さァ」
「うーん…」
「どうしたの、シャオリー?」
シャオリーは、さっきまでウソップが座っていたところを見つめ、考え事をするように顔をしかめた。
「ううん…何でもない」
ウソップの顔…前にもどこかで見たことあるような……
「ウソップ海賊団、参上っ!!」
突然店のドアが開き、3人の子供が現れた。さっき海岸で見かけた子供たちだ。3人はおもちゃの剣を持っている。
「なにあれ」
「さー、何だろうな」
「か、かわいい…!」
シャオリーは顔をキラキラさせた(←子供好き)。
「お、おい海賊達っ!」
「我らがキャプテンウソップをどこへやった!!」
「キャプテンを返せ!!」
短剣をかざし、声を張り上げる3人。すると食後のお茶のカップを机に置き、わざとか素か(たぶん素)、ルフィが言った。
「はーっ、うまかった!肉!!」
「! え…肉、って…!?」
「まさか…キャプテン…!!」
なんてことだ、と衝撃を受けて動揺する子供達。子供って純粋だなあ…
そんな3人を見て、悪戯っぽくニヤリと笑うゾロが追い討ちをかけた。
「お前らのキャプテンならな…」
「な、何だ!!何をした…!?」
「さっき…喰っちまった」
「「「ぎいやああああああ鬼ババア〜〜っ!!!」」」
「何で私を見てんのよ!!」
3人はナミを見て絶叫し、泡を吹いて倒れてしまった。
「あんたがバカなこと言うから!」
「はっはっはっは!!」
「うああ〜かわいいなあ…!」
子供達の純粋さに、シャオリーは悶えた。
***
「時間?」
「ああ。そう言ってさっき出てったぜ」
「あ、そうか。キャプテン、屋敷へ行く時間だったんだ」
「屋敷に?」
「何しに行ったんだよ」
「ウソつきに!」
「ダメじゃねェか…」
「ダメじゃないんだ!立派なんだ!」
「うん。立派だ!!」
「??」
ウソをつくことが立派だという3人の言い分に、シャオリーたちの頭には疑問符が浮かんだ。
そして3人は説明してくれた。両親を亡くし元気の無いお嬢様に、面白い"ウソ"を話して笑わせているのだという。
「なんだ、あいつ偉いじゃん」
「お嬢様を元気づけるために、ずっと通ってるんだ」
「いい人なんだね」
「もしかして、もうお嬢様元気なのか?」
「だいぶね。キャプテンのお陰で!」
「よし!じゃあやっぱり屋敷に船をもらいに行こう!!」
「駄目よ!さっき諦めるって言ったじゃない」
「駄目だ、おれは決めたんだ!早く屋敷に行くぞ!お前ら、案内してくれ!」
3人を連れ、ルフィは店を出ていった。
「あーもう…行くしかないのね」
「仕方ねェな。あいつは言い出したら聞かねェぞ」
「私たちも早く行かなきゃ!」
会計を済ませて、シャオリー、ゾロ、ナミもルフィの後を追った。
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