09
「うわああああっライオンだあ!」
「しっ、静かに!」

ナミは両手でシャオリーの口を封じた。シャオリーは目をキラキラさせている。

「ふぁひ、ふぉんほおはいおん、はひふええた」
(私、本物のライオン、初めて見た)

シャオリー、ナミ、町長の3人は建物の陰からルフィとライオンの様子を伺っていた。

「あいつ、大丈夫なの…?」
「ふひぃはふよいはあ、へーひお」
(ルフィは強いから、平気だよ)

「やれ!リッチー!!」

モージの命で、ライオンリッチーが鉄の檻に襲いかかる。檻は1秒と持たず簡単に壊れてしまった。

「鉄の檻が…!」
「まずい!あの小童殺されるぞ!!」

「グァオォオオ!!」
「!」

檻から脱したルフィだが、リッチーのライオンパンチによって裏通りまで吹っ飛ばされてしまった。

「ルフィ…!」

無事だろうとは思っても、シャオリーは急いで裏通りへと向かった。

***

「うおお!何で生きとるんじゃ小童!!」
「あ、あんた、おかしいわよっ!!」

案の定ピンピンしているルフィを見て、町長とナミは驚きの声を上げた。

「ルフィ!良かったー」

シャオリーが抱きつくと、ルフィもししっと笑って抱き締め返してくれた。

「おれ、ちょっとゾロのところ行ってくる。あいつ、ゾロのこと探してたみてェだから」
「あ、私も行く」
「バカよせ!今度こそライオンに食われるぞ!」

町長の止める声を聞き流し、シャオリーとルフィは、ゾロの寝ている町長の家に向かった。

「………ん?何か変な匂いしない?」
「そうか?」
「うん。なんか、焦げ臭いというか」

例えば、木が燃えているような匂い…

「ワンワン!!」
「!」

二人は先程の通りまでやって来た。そして、"それ"を見て足が止まった。

「ワン!ワンワン!!」

真っ赤な業火が、燃え盛っている。ついさっきまで、ペットフード店があったところに。
炎の前では小さな白い犬が座って、ただただ吠えていた。その黒い瞳からは、透明な雫を溢しながら。

シュシュにとって、宝なんじゃ

シャオリーは言葉も出ずに、ただ呆然としてその光景を見つめていた。

大好きな主人の形見だから

犬は、吠え続けた。

気がつけば、隣にいたはずのルフィがいなくなっていた。

炎が、少しずつ弱くなる。その中から徐々に見えてきた、彼の"宝"。

「ワン!ワン!」

シュシュは吠えることを止めない。頭のいい犬だから、もうわかっているはずだ。
嘆いているわけではない。

「(謝ってるんだ…)」

言い付けを守れず、店を守れなかったことを。

「ワンワン!ワン!!」

小さい声だと、天国には届かないから

やがて炎が収まると、ようやくシュシュも吠えるのを止めた。宝物の成れの果ては、真っ黒な木片だった。ぶすぶすと、まだ燻っているところもある。

「ひどい…」

ナミが呟く。その表情には、深い憎しみが見える。

「どいつもこいつも……海賊なんてみんな同じよ…!人の大切なものを平気で奪って!!」
「っ、」

違う、そう言いたくてシャオリーが顔を上げたとき、ルフィが戻ってきた。

「ルフィ…!」

ルフィはシュシュの前に、少し潰れた四角い箱を置いた。箱には「PET FOOD」の文字が見える。

「これしか取り返せなかった!よくやったよ、お前は。見ちゃいねェけど大体わかる!」

ニッコリと笑うルフィに、シュシュが何を思ったかはわからない。やがてシュシュは、ペットフードの箱をくわえて歩き出した。しかし途中で振り向く。

「ワン!!」
「おう!お前もがんばれよ!!」
「ワン!ワン!!」

ありがとう、と言ってる気がした。犬の言葉なんてわからないから、シャオリーはそう思うことにした。

「ぬぐぐぐ…!!わしはもう我慢できーん!!!」

突然、町長さんが叫び出した。

「さながら酷じゃ!シュシュや小童がここまで戦っておるというのに!町長のわしが指をくわえて町を潰されるのを見ているわけにはいかん!!!」

町長さんは固く拳を握り、それを天高く掲げた。

「この町を守れずに、何が町長か!!わしは戦う!!!」

ドゴゴゴゴオン!!!

轟音と共に、一瞬にして目の前の家々が吹き飛ばされた。
これ…さっきのと同じやつだ…!

「あっ、ゾロが!」

吹き飛ばされた家の中には、ゾロが寝ている町長さんの家もあった。

「死んだか、腹巻きの小童…!?」
「ゾロー!!」
「生きてるかァ!!?」

シャオリーとルフィが心配そうに叫ぶと、煙の中に人影が見えた。

「あー、寝覚めの悪ィ目覚ましだぜ」
「ゾロ!わー、よかったあ!」

嬉しくなったシャオリーがゾロに抱きつくと、ゾロはよしよしと背を叩いた。

「……!!胸をえぐられる様じゃ…!!」

町長さんは自らの胸を叩く。

「わしの許しなく、この町で勝手なマネはさせん!いざ勝負!!」
「ちょ、ちょっと待って町長さん!」

走り出した町長さんを、ナミが慌てて引き止めた。

「放せ、小娘!」
「あいつらの所へ行って何ができるのよ!無謀すぎる!!」
「無謀は承知!!!」

振り返った町長さんの目には、雫が光っていた。
ナミはハッとして、手から力が抜けた。シャオリー、ルフィ、ゾロは何も言わずにただ見つめていた。

「待っておれ、道化のバギー!!」

町長さんはとうとう、走って行ってしまった。

「何だか盛り上がってきてるみてェだな」
「ししし!そうなんだ」
「笑ってる場合かっ!」
「おれはあのおっさん好きだ!絶対死なせない!!」

自信に満ちた笑顔を浮かべるルフィ。この顔が、一番ルフィらしい。

「おれ達が目指すのは"偉大なる航路"。これからその海図をもう一度奪いに行く!
仲間になってくれ!海図要るんだろ?」

ルフィがナミに手を差し出す。しかし、

「私は海賊にはならないわ。
"手を組む"って言ってくれる?お互いの目的の為に!!」

ぱん、とナミはルフィの手を叩いた。一応、これでナミとは"手を組む"ことになったらしい。

「"偉大なる航路"の海図?」
「ああ、シャオリーお前何も知らねェのか。まァ何にせよ、あいつらんとこにゃまた行かねェとな」

ゾロは立ち上がって、腕に巻いてある手ぬぐいを解いた。

「あんたも行くの?お腹の傷は?」
「治った」
「治るかっ!」
「腹の傷より…やられっぱなしで傷ついたおれの名の方が重傷だ」
「行こう」

ゾロは手ぬぐいを頭に巻き、ルフィは指をパキパキ鳴らした。二人とも、まるで悪戯を仕掛けた子供のような笑みを浮かべている。

「あっきれた…」

ナミは手で頭を押さえた。

「頭痛いの?大丈夫?」
「……あんた、よくこいつらに付き合ってられるわね」
「?」

シャオリーはきょとんとした。ああ、そうか、

「あの船長にして、この副船長あり、ってことね…」

さらに頭痛がひどくなった気がしたナミだった。


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