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花のような人
2014.04.05
HappyBirthday!
―――Will・A・Spencer!














「……あ。蕾」




水差しを持つ手をぴたりと止めて、茉莉は植木鉢を凝視した。
彼女の呟きを耳に入れたウィルも、眼鏡越しに「?」と目線を植木鉢に向ける。




「何?どうしたの?」

「ウィル、見てください。ほら……蕾。蕾が出てるんです」

「蕾?……本当だ」

「ね?昨日、水をあげた時には無かったのに……。嬉しい、ちゃんと育ってくれてるんですね」

「うん。良かった……」




小さな、小さな花と葉に隠れて、愛らしい姿を見せたのは、これまた小さな小さな花の蕾。
茉莉とウィルは互いに微笑みを送り合い、その眼差しを植木鉢に優しく降らせた。




「この蕾、ちゃんと咲くかな。綺麗に咲いてくれるように、私も今まで以上にお世話を続けないと」

「大丈夫、必ず咲くよ。この花は俺が君を想うように、枯れずに……ずっと花を咲かせてくれる筈だから」

「ふふっ!枯れずに?それは、お世話する私としては責任重大ですね。枯らさないようにしなくちゃ」

「そんなに重大?」

「そんなに重大ですよ。ウィルの想いを枯らせる事なんて出来ないですから」




茉莉とウィルと、二つの柔らかな笑みがくすくすと机の上に落とされていく。
花は執務室にある。
重厚感のある机の上、日々の案件や書類に埋もれないようにと、ウィルによって机の端に置かれた植木鉢。
それは、茉莉と出会う以前からウィルの机に置かれていた物だ。
だが、以前とは違う。
ウィルにとって花はもう、それまでとは持つ意味を変えていた。




「枯れないよ。例え花が落ちても、葉が枯れる事があったとしても、君が傍にいてくれるなら何度だって咲く……俺がそうであるように、きっと」




花は一度、確かに終わりを迎えたのかもしれない。
それでも、花の一部を「もう一度」と信じたウィルの手によって植え替えられ、そうして根を付け、花を付けた。
あの日のプロポーズ以降も、こうして変わらぬ愛らしい姿を見せてくれている。
花はもう、ウィルにとっては自分自身を投影した物になっていた。
儚く、脆くて萎れ易い。
いつ枯れてしまっても可笑しくは無いだろう。
それでも―――…、




「強く咲いていたいと……きっと、この花も思ってる筈だから」




思えば、誰にも触れさせた事は無かった。
日々の水遣りですら、クロードや使用人にも許した事は無かった。
それが、何故か彼女には許した。
花の世話をしたいと申し出た彼女に、花の世話を一任した。
それは、もしかしたら花がそうであったように、自分自身もそうであったのかもしれないと、今にして思う。




「……はい。私もずっと傍にいたいです」

「それはどっちの?花?それとも、俺?」

「ふふっ。どっちでしょう?」

「君も言うようになったな。教えて、どっち?」

「それは勿論……、きゃ?!」




生きて、活きていく為に必要な最低限の潤いだけではなく、愛情をもたらしてくれる人の温もりを。
温もりを、優しさを、花が求めるのと同じように、自分も求めていたのかもしれない。




「ウィ、ウィル!あの…っ…」

「俺の質問に意地悪な答えを返した君がいけない。ねえ、教えて?答えはどっち?」

「待っ……んっ、!」

「答えてくれないと、もっと先に進むけど……?」




咲きたい。
もっと咲いてみたい。
陽の光に届くように、葉を先まで伸ばして陽射しを仰いで見たい。
不安定で不確かなこの世界で、挫けない強さを抱いていたい。
根を生やして土を捉えて、花弁を悠々と開かせる自信を持ちたい。
それら全てが花の願いであるのと同じく、自分の内に閉ざさざるをえなかった、弱さ故の隠れた願いでもあったように―――…。




「ッ、はぁっ。もう、ウィルったら……こんな深いキス……答えたくても答えられないです」

「それで?答えは?」

「答えって、それは勿論……ウィルの傍にずっといて、花のお世話をずっとしていたいです」

「……よく出来ました」

「んんっ…ぁ…!もうウィルってば、答えたら止めるって言ってたのに……!」

「じゃあ、今度は止め方を教えて?どうしたら俺がこのまま君に触れずにいられるのかを」

「……っ」

「君の答えは?」

「や、止めなくていいです……」

「……正解」




君の笑顔が傍にある限り、この世界で強く咲いていられる。
咲き誇る強さをくれる。
例え小さく儚い花弁だとしても、折れない。
折れずに、真っ直ぐに咲いていくだろう。
王家の中で全てを諦めて生きてきた、只の柵でしか無かった肩書きを、今は君が与えてくれた強さで受け入れる事が出来たように。
君と寄り添いながら、時には弱くも、強く在り続けたい。




「茉莉、愛してる……」

「私も……ウィルを愛してる」




遠く、
先の未来にまで想いが消えずに、種として残るように―――…。












「ヘンリー?どうしたの?」

「ああ。ちょっと」

「わぁ、素敵なお花……。小さくて可愛いお花だね。花壇いっぱいにこんなに咲いて……水遣り?」

「祖父が城の中でもこの花壇だけは特別だって言ってたから、俺もたまに水を遣ってる。何でも、祖母がここまで育てたらしいから」

「育てたって?」

「最初はこんな小さな植木鉢に咲いてたみたいなんだけど、それをここまで群生にしたのは祖母が毎日毎日世話を欠かさなかったかららしい」

「へえ……この花壇にそんな素敵なエピソードがあったなんて知らなかった。……私もお水をあげてもいいのかな?」

「勿論。きっと祖父も祖母も喜ぶ」

「うん……!」












……―――――咲き誇れ。















20140405

ウィルりん、誕生日おめでとう。
最近だとGREEだGREEだGREEだな王子だけど、ふわりは絶対に本家派です。
本家の、本家だからこそのウィルりんの植木鉢のくだりから垣間見えた、貴方の儚さや弱さや、そこに強さや主人公との繋がりや自身への誓いを込めた話は、ふわりは貴方という人を語る上では一番のエピソードだと思ってます。
ウィルという人がどんな人か。
やはり、本家本編が一番物語っていると今でも思います。

そんな想いも込めて、ウィルの誕生日に、あえて誕生日とは関係ないけれども本家本編の植木鉢をテーマに書いてみました。


ウィル、
誕生日おめでとう。
貴方が生まれてきてくれた事で、世界は引き寄せられるように変わっていったのだと思います。
キーちゃんを、ロベちゃんを、グレたんをジョシュをエドちんを、そしてあの世界を作ってくれた年長組のウィル。
本当にハピバです!

おめでとう−−−−!!







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