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そんなに不思議に思う事かな――――?




「茉莉さん。貴女、クロードと付き合ってるって本当なの?本当に?あの鉄火面と?ね、クロードの何処が良かったの?」

「おいおい、止さないかセシル。茉莉さんが困ってるだろう?確かにクロードは、まぁ……あれだが」

「スティーヴだって私と同じ事を言いたいんじゃなくって?」




皆が皆、あまりに口を揃えて言うものだから、そんなに不思議に思う事なのかなって、逆に私まで不思議に思えてしまう。




「茉莉ちゃん、ウィルりんから聞いたんだけど……本当?あの、みょーんって吊り目の執事と付き合ってるって話……」

「ロベルト王子。お気持ちはわかりますが、茉莉さんがお幸せであるなら、それが一番ではと我々の話し合いでも結論に至ったのでは?」

「でもさ〜、あの執事だよ?みょーんな執事だよ?茉莉ちゃん、本当にあのみょーんな執事でいいの?」




「みょーん」かどうかはわからないけれど。
(まぁ、言いたい事もわからないでもないけれど)




「あ……ウィルりーん!ウィルりんからも何か言ってやって?!俺、茉莉ちゃんに本当なのかどうか、そこん所ちゃんと確かめてからじゃないと、気になって気になって今夜は眠れそうにないから!」

「……じゃあ、一緒に寝る?」

「え……俺がウィルりんとって事?あ〜いや、それは遠慮しとく……」

「それで、本当の所はどうなのですか?ウィル王子。先日仰っていたように、やはり茉莉さんはクロードさんとお付き合いを?」




そんなに不思議―――なのかな?




「ああ。彼女はうちのクロードと交際をしているが……言わなかった?」

「ああ〜…やっぱり……?」

「ロベルト王子、ご安心ください。何も悲しんでいるのはロベルト王子だけではありません、私も同じですよ。そう、まるで雛鳥の巣立ちを見送る親鳥の心境のように……」

「ロベルト王子とエドワード王子は、いつから彼女の親になったの……?」




皆、何をそんなに不思議に思ったり、心配したりするのかはわからないけれど、私はこの恋を奇跡のようだと思ってる。




「残念だが、彼女はもうあいつの恋人だ。……ね、茉莉?」




好きになった人が、自分を好きになってくれる。
そんな奇跡のような恋をしているなんて、嬉しくて嬉しくて自分一人では抱えていられない。
だから、皆に伝えたい。




「はい。私は……クロードさんとお付き合いしてます」




私の恋人は、執事のクロードさんです―――と。













紹介します。
私の彼氏の
クロードさんです!


fuwari time 4040400hit.
request2……Claude.

Dear―――love!愛咲
















「……そんなに騒ぎ立てる程の事でもないでしょうに……」




広間の端で、身を潜めて壁際に立っていたクロードは、「はぁ…」と呆れたように肩で息を吐いた。
半ばげんなりした様子のクロードに、傍らに居合わせるウィルが真顔でぽつりと呟きを漏らす。




「みょーん……」

「ウィル様まで……。お止めください。私をからかいたいのであれば、他に手立てをお探しになられたらどうです?」

「いや。ロベルト王子がお前の事をみょーんと何度も比喩していたから、試しに言ってみただけだが……確かに、ロベルト王子が言いたい事もわからなくもない」

「ウィル様、私相手にご冗談を仰る暇があるなら、ご挨拶周りに向かわれてはどうですか?」




淡々とした口調で主人に「みょーん」と言われるのも、執事としては正直しんどい。
クロードは眉尻を下げて脱力感を露にすると、落とした肩を更に落とした。




「たまにはいいんじゃないのか?矢面に立ってみるのも」

「お言葉ですが、私は常日頃から王家の為に率先して矢面に立っているつもりです」

「そうじゃない。冷やかしの矢面にだ」




そう言って、ウィルは手にするグラスの縁にくすりと笑みを落とした。
微笑を浮かべた綺麗な横顔は、実に愉快そうだ。




「執事である私が私事で皆様の話題に出る等、王家としても言語道断ですよ……全く」




ウィルのからかいを溜め息で躱し、クロードは広間をぐるりと見渡した。
遠目に送った視線の先では、茉莉がロベルトやエドワードに挟まれ、何やらやいのやいのと質問責めにあっている。
その光景はウィルの目にも映っているようだ。




「諦めるんだな。お前が彼女を独り占めにした報いだ。精々、皆から絞られたらいい」




ふっと笑みを浮かべながら、ウィルは空になったグラスをクロードに差し出した。
クロードはそれを受け取ると、相変わらずこの現状を愉しんでいる主人に対して嘆きを溢して返す。




「絞られた所で何が出るという訳でも無いでしょう。それ以前に、私は皆様に一体どのような印象を抱かれているのですか……」

「だから、みょーんだろ?」

「ウィル様……その言い方はご勘弁ください」




「はぁ…」と、もう何度目かのクロードの溜め息に被せて、くすりとしたウィルの笑みが乗る。
執事の悲嘆を余所にウィルはその場をさっさと後にすると、茉莉に助け船を出すべく、ロベルト達の輪に加わった。




「セシル様といい、スティーヴ様といい、皆様といい……人を何だと思ってるのです?」




そんなクロードの傷心めいた呟きは誰に拾われるでもなく、華やかに賑わうパーティーの談笑に掻き消されてしまうのだった。










…―――――その夜。




「今日は楽しかったですね。セシル様やスティーヴ様にもお会い出来たし、ロベルト様達ともご挨拶出来て良かったです」




紅茶を一口、こくんと喉に流し入れた茉莉は、満足気に今夜のパーティーを振り返った。
フィリップ城でのパーティーとあってか、来賓の中にはスティーヴとセシルの姿も見えて、茉莉は二人と久し振りとなる会話を弾ませた。
勿論、招待を受けていたロベルトやエドワードも然り、実に楽しく充実した一時を過ごせた。
だが、そう思っているのは、どうやら茉莉だけのようだ。




「クロードさん?大分お疲れのようですけど……どうかされましたか?」




椅子に腰掛ける茉莉の対面で、クロードは脱いだ上着をハンガーに掛けている。
上着を脱いで、タイを弛め、そうしてシャツにベストのみというラフな格好に着崩した彼は、酷く疲労困憊の様子だ。




「貴女はあれで楽しめたと?」

「はい。凄く楽しかったですよ?」

「まぁ……貴女が楽しめたのなら、良しとしましょう」

「?」




きょとんと首を傾げて上目に見遣ってくる茉莉に、クロードは彼女の頭上にポンと一度掌を落とすと、近くのソファに身体を預けた。
そうして吐く、今日一番の大きな溜め息。




「私は今夜のようなパーティーは二度と御免ですよ。ロベルト様といい、途中からお見えになられたジョシュア様やキース様といい……私には敵が多いと、改めて思い知らされました」

「ええ?パーティーで何があったんですか?」




ぐったりとソファに項垂れているクロードに、茉莉はカップを一旦ソーサーに戻すと、おろおろと彼の傍に駆け寄った。
「あの」、いや、「この」クロードがここまで憔悴するのも珍しいだろう。
無理もない。
6か国の王子達はてんでバラバラな言動や行動をそれぞれに取るが、それが一致団結した時程驚異的な威力を発揮する。
その矢面に立たされるというのは、相当なものだ。




「何?ウィル王子の執事が茉莉の交際相手だと?ウィル王子ならばともかく、相手が執事とあらば簡単には納得いくまい。今すぐそいつを連れて来い!」

「ほら〜。ジョシュアお父さんが怒っちゃったよ。ウィルりん、クロードさん何処?いる?」

「ねえ、いつからジョシュア王子は茉莉の父親になったの?」

「あいつが選んだ男なら文句は無いが、付き合う以上は先ず俺等に挨拶すべきだろ?ほら、あれだ。お嬢さんをくださいってやつ。それくらい言えなくて、あいつの彼氏面をさせる訳にはいかないだろうが」

「キース王子。段々ジョシュア王子と発想が似てきているのは友好条約上、良い事だと思いますけど、何か色々間違ってますよ。思い切り」

「まぁまぁ。グレン王子の仰る事もわかりますが、先ずはジョシュア王子、キース王子。ここは一つ穏やかに参りましょう。皆、同じお気持ちでしょうから」

「よし。エドちんお母さんがお父さんズを宥めてくれた所で、早速だけどウィルりーん。クロードさんいる?」

「いるけど……呼んで一体どうするの?」

「えー?そんなの決まってるじゃんか。茉莉ちゃんとの馴れ初めから、告白はどっちからしたのかまで洗い浚い……」

「嘔吐させてくれる!」

「ジョシュア王子。その言い方は語弊がありますよ。お食事も並んでる事ですし、もう少し別の表現でお願いします」




……―――と、振り返っただけでも文字通り、疲労で困憊する時間をクロードは過ごした。
何を聞かれ、どう問い詰められたのか、思い起こすのにも戦慄が走る程。




「貴女には一体、何人保護者がいるんですか?」

「え……ええ?」




衣服を軽く着崩した際に、一緒になって乱れたのだろう。
クロードの前髪がセットを若干崩している。
疲労し切った様子で項垂れている彼には気を掛けつつ、茉莉は彼の前髪を指先で掬うと、セット時同様に耳に掛けてみた。




「……何です?」

「あ、すみません。前髪が目元に掛かっちゃってたので、耳に掛けてあげようと……」




茉莉にとっては何の気無しの行動だったが、クロードの髪に触れてから数秒後、時間差を要してハッと気付いた。




(……わ。どさくさに紛れてクロードさんの髪、触っちゃった……)




指先ではらはらと落ちていく、クロードの前髪。
整髪剤の付いた髪は本来の髪質を隠しているのだろうが、それでもわかる。
指先に乗る彼の髪が柔らかく、コシがある事を。






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