刺と人形


鋭い牙のような刺が
もろく心に刺さる
それは
まるで抉り取るように
深く深く突き刺さる


どんなことにも揺らぎない信念と
どんなことにも耐え得る強さと
そして
どんなことをも許せるだけの慈悲と

そういうものが簡単に手に入れば
心に幾十もの鎧を被る必要はない


どんなに鎧を被っても
それは重くのしかかるだけで
ただの一輪華のように凛と咲けない


それが哀しくて悔しくて
それでも儚げでも凛と咲く華にはなれない


鋭く鋭く
突き刺さった刺は
まるで毒を持って
じわじわと心からも
体からも自由を奪って行く

それを感じながら
まるで蜘蛛の巣に絡めとられた蝶の如く
足掻いても
足掻いても
抜け出すことはできず
やがて訪れる最期の刻を
ただやるせない気持ちで待つ





 
果てしない世界の中には
何千種類の華がいて
どれもが同じ場所で
綺麗に咲けるわけでもない


大切だ大切だと囁きながら
手折っては高らかに笑い
そこに咲くこともままならないくせにと
嘲笑う

心を磨り減らして磨り減らして
極限まで磨り減らして
ようやく
人形のような怜悧な無表情を身に着ける

決して華のような笑顔は見せず
ただただそこには何もないように
高い場所から徹底的な無視を決める


そう人形は何も感じないから
心を狂気に晒す前に
精神を自己破壊してしまう前に
人形に為り変わってしまうことも
それもまた一興かもしれない


それは決して誰をも傷付けない
確かな自己を守る方法
そうして
自分の心を
自分の手で殺し
一体何が残るのだろう


精巧でまるで生きているかのような人形が
ただ一体
そこに飾られるのだろうか



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