プロローグ


 遠い昔、って言っても僕はまだ15年しか生きてないからそんなに昔じゃないかもしれへんけど、

「好き、嫌い、好き、嫌い……」

って花びらを一枚づつちぎっては捨てる花占いを一心不乱にやってる女の子を見て、

『あの花、可哀相やなぁ』

って漠然と考えていた。

『あんなに綺麗に咲いてる花やのに……』

って。それやのに僕はいつの頃からか心の中に一本の花を描いて、

「楽しい、楽しくない、楽しい、楽しくない……」

って空想の花びらを一枚づつちぎっては捨てる花占いを繰り返して、永い、永遠とも思える時間をやり過ごすようになっていた。それは必ず

「楽しくない」

で終わって、僕はいつもどこかで

『やっぱり』

って諦めていた。

 僕の名前は鵜道在有。15年の間に4回も苗字が変わってるって思ってたけど、実は生まれてから今まで公的書類では1度も変わってへんって僕を保護した人が言っていた。

 もうほとんど記憶にないけど、僕がまだ幼稚園に通う頃、綺麗で派手できついめで美人なお母さんと、お母さんより随分年上でいっつもお母さんのわがままを笑って受け止めてたお父さんと、そして僕より15も年上のお兄ちゃんがおった。

 僕が小学生になって始めての夏休みに、お母さんは僕の手を引いてその広い家を出て小さなアパートに移った。何にもない部屋に、たった二人。その時僕は深見在有になった。お母さんはいっつも僕を見て

「在有って名前はね、大好きなお父さんとの間に生まれて来てくれて、ありがとう、って意味なんよ」

ってにこやかに幸せそうに言っていた。

 そんな生活が一変したんは僕が小学校の高学年になった頃。お母さんは突然全然知らない男の人を連れて来て、

「今日から一緒に暮らすことになってん」

ってなんの前触れもなく僕に告げた。その人はお母さんよりまだ若くて、見た目はどこかのチンピラみたいで、僕は幼いながら、

『きっと店の客や、この人きっとヒモっていう奴や。』

って思った。それは当たりで、ヒモはいっつもお母さんにお金をせびってはぷらぷらと遊んでいた。

「しゃぁない人やね」

って笑っていたお母さんは、段々と生活に疲れたみたいにキラキラ輝いていたものがどんどん抜け落ちていった。その時僕は五条在有やった。それは僕にとって地獄の始まりで、今でもその悪夢から逃れられないでいる。



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