手のひらで包んだ愛を



※途中残酷表現


起床時間は6時少し手前。目覚まし時計のベルを鳴る前に止めて再セットし、隣の布団で端整な寝顔を晒している想い人の頭を撫でる。それでも身じろぎせずに寝息を立てているのだからよほど疲れているのだろう。
朝御飯を用意するために台所へ向かう。

俺には左の手首から先が無い。いやあると言えばあるのだが、説明が難しい。

始まりは16年ほど前、そこまで仲も良くなかった吉影が明らかに面識の無い人の家に忍び込もうとしているのを目撃した。とっちめて話を聞き出し、紆余曲折あって恋人と言う名の監視役に収まった。
いついかなる時も目立たないように過ごすそいつが一人の女性に執着すればとても判りやすく、写真の手で我慢しろと雑誌を押し付ける。元はと言えば吉影の家庭環境から始まったこの性癖は、範囲を決めて解放すればなんとか凌ぐことが出来た。辛うじて吉影に理性が残っていたことも幸いした。

ある日吉影が矢に刺されたことでその状況は変化した。何故か真っ先にそいつはおれの左手を切り取った、いや、その時の痛みからして「付け根を爆破して奪い取った」。
吉影が良からぬ手段を用いたことは確かで、ショックでそのままポックリ逝きそうな痛みに耐えて俺の手だけで我慢しろと訴えた。今思えばどんな懇願だよと思う。
意外にも素直に言うことを聞いてくれて、とりあえずは平穏な毎日を過ごし、吉影と同じような能力を持った人々に出会って。
今はなんちゃら財団の監視下で平和に生活している。

けれど、彼は未だに俺の左手を返してくれない。長年抑制され歪んだものは中々元には戻せないのだろうが、ふと自分の欠けた部分を見るたびに……
もしかすると、本当は俺自身、愛されてないのではないかと思ってしまう。
色々と問題が解決した後も一緒に暮らしている時点で、その悩みは無駄なのだろうけれど。

「なまえ」
声がかけられて後ろから頭に手を置かれる。起きてきたんだろう。
『お早う。朝御飯もうすぐできるぜ』
「明日の休みは仗助の所に行く。着いてきてくれるかい」

時が止まったかのように思えた。

「もう大分経っているから治せないかもしれない。その時は財団に頼んで義手を作って貰おう」
『………なんで、今更かよ』

「彼にはもう話を通してある。今まで……済まなかった」
きつく抱き締められて思わず振り替える。目を合わせてきた。
ああ、これは本気の目だ。
「あー、改めて……僕と共に平穏な生活を、過ごしてくれるかな」

最後の最後で弱気になった声がおかしくて、笑ってしまった。ちょっとばかし眉を潜められた。ので、頬にキスを落として料理を再開する。分かりづらく染まった彼の耳は、朝食を食べ終えるまで赤いままだった。





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