ランタンに灯す



※アヴドゥルさん生存でなぜか日本住み

エジプトにハロウィンという文化は無いそうだ。そもそも死者がこの日に甦るという概念はわたしの国には無い、と、彼の口から聞かされた。

ならば私はハロウィンを祝わなくても良いということだ。女友達からコスプレイベントに参加しないかと誘われたが、「彼」がそういったことに興味がないのなら私にとっても重要ではない。今日は母も父もイベントの手伝いやらで職場にかかりきりだ。
家で一人を満喫することにする。


壁にかけられた時計に目を向ければ、短針は7を丁度今指したところだった。
と、そこで家の電話から着信音が鳴る。こんな時間に誰が、コスプレに異常に情熱をかけていた友達だろうか。それともグロ系メイクに命を燃やしていた彼女だろうか。
『もしもし』
《ああ、私だ。少し財団の方でトラブルがあってな、迎えの車を寄越すので準備をしてくれないか》
『了解です、それでは』
まちがいなくアヴドゥルさんの声だったので、受話器を置いて支度を整える。


程なくしてSPW財団のものと思われる黒塗りの車が見えた。ブザーがゆっくりと二回鳴らされ、戸の磨りガラスには見覚えのある人影が立っていた。ランプでも持ってきているのか彼の手元は少し明るい。
『お待たせしました……!?』
「丁度着いたところだが、なまえ。こういう時はトリック・オア・トリートと言うんだったか」
いつもの耳飾りはそのままに、黒衣に身を包み南瓜のランタンを下げた“彼”がそこにいた。体格差の問題でこちらを見下ろしながらも、時折しゃらりと揺れる装飾の音はひどく優しい。
『なんっ、あぶっ、え、』
「聞けばハロウィンとは悪魔の仮装で身を守る祭りらしいと花京院に聞いてな。わたしはあまりこういうものは分からんのだが、きちんと主意に沿えているかな」
まさかアヴドゥルさんが仮装をして来てくれるなんて。暫く惚けてまじまじと見てしまい、もう一度声をかけられて慌てる姿を晒してしまった。

ところで財団のトラブルというのがこれも真っ赤な嘘で、本当は私たち高校生組を標的としたサプライズハロウィンパーティーだった。
騙されたのには不満はあるが、良いものが見られたので良しとしよう。





BACK/
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -