杜王町のハロウィン



「トリック・オア・トリート!」
ベッドに転がりヒマしていたおれの元に、シーツを被っただけの小さなお化けが飛び込んで来た。ポンパドールにした前髪の部分が微妙に膨らんでいる。はいかわいい。
「どっスか!こわいだろ!」
『おう!めちゃくちゃこわいぜェ〜』
今すぐ朋子さんに一眼レフを借りに行きたいという衝動を抑え、揃えた足でシーツお化けを持ち上げれば幼い子供特有の甲高い声で喜んだ。そのまま飛行機のようにブンブンと飛ばしてやると、はっと気づいたように体をこわばらせる。

「にーちゃん下ろしてくれよォ!大事なことわすれてた!」
あまりにも深刻そうな顔つきだったので下ろしてやると、もぞもぞと動く白い固まりはビッ!と両手を差し出してきた。
「おかし!」
『? 今はなぁーんも持ってないぜ』
母さんに持たされた諸々はこちらに来た時既に渡してしまった。今おれが持っているものと言えば二日分の着替えと、歯磨きセットと勉強道具ぐらいなものだ。それが分かった途端に仗助……違うな。シーツお化けはしょげかえり、頭のあるだろう部分を俯かせた。

『あー、トリックオアトリートなんだろ?トリートが無いならトリックしても良いのよォ?』
仗助だったら非道なイタズラはしないと見込んで機嫌を取る。トリックの意味がまだ分からなかったようなので教えてやれば、顔を輝かせて超能力の子供を出してきた。
『ちょ、ちょっと仗助クン?何を「コイツも混ぜて三人で遊ぶんだ!」あ、そーいうカンジね……』
イタズラじゃなくないかと思ったけれど、つまりは仗助の言うことを聞いてやればいいってことなんだろう。それから外でサッカーボールをしたり、超能力の子に持ち上げてもらったりして時間を潰した。


気がつくと既に日が暮れかけていて、朋子さんが教師の仕事を終えて帰宅する時間だと言うことを知らせてくれた。
『そろそろ家に入るぜ、暗くなってきたし』
「はぁ〜〜い。あ、そうだ」
仗助の体に戻っていくような動作で超能力の子が消えていく瞬間、頭を撫でられた気がした。風だろうかと思って従弟の顔をうかがうとすぐに犯人が分かった。
「いつもありがとうな、なまえのにいちゃん」
いたずらを成功させたときのようににんまりと目尻を緩めたそいつは、恥ずかしくなったのかだらしない笑い声を押さえながら玄関に向かって走ったのだった。


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