口を塞ぎたくなった



またたいちがゆきちゃんに振られたらしい。
「いい加減に諦めたらどうなんだね」とは露伴の台詞だ。
『そういうのは本人に直接言ってほしいっつーかよォ、おめーが言えたことじゃあねえだろ』
今日も露伴の家で暇を潰している。そしていつものように露伴はスケッチブックと向かい合って何かしらを描いていた。

これで何回目だろうか。あいつが振られた噂を聞いたのは。親友の言った通りゆきちゃんにこだわらなくても、たいちならいい子を見つけられると思うんだけれど。
部屋の持ち主に確認をとらずベッドに仰向けに寝転がり、考える。
なにより一人の女の子に付きまとって飽きないものなんだろうか?おれなら脈なしと感じたら別の子を好きになるかもしれない。
露伴はどうだろう?誰かを好きになったら、俺の事は後回しになるんだろうか。

「なまえ」
気づけばおれの顔には影がかかっていて、いつのまにかこちらに移動してきた露伴が電灯の光をさえぎっているのだと理解した。
ゆっくりと顔が降りてきて、うぶ毛で鼻息が感じ取れるぐらい近づく。

始めはかさついた皮がくっついてきた。

驚きすぎて目が乾くぐらいに露伴を見ると、今まで見たことがないような顔をしていた。とんでもないぐらい眉が下げられていて、なんだろう、にんまりと笑うその顔を見ると変な気分だ。

次のは舌で湿らせたのか、妙にべたついた唇がおれの口に乗っかってきた。
こういう時は目を閉じるんだと母さんの見るドラマで教わった。その通りにすると真っ暗闇の中で唇の辺りがぞわぞわとした熱さを持ち始めて、慌ててまた目を開く。同時にそいつの顔が離れて息が自由になる。
『んん、露伴!?おめーどうしたんだよぉー?』
途中まで普通に受け入れていた時点でおかしいのだが、その時のおれは露伴の頭がとうとうイカれたかと心配するので頭が一杯だった。流石に男同士のキスはちょっとダメだろうとよだれでべたべたの口を擦ると、そいつは何かを我慢するような難しい表情になった。

「……きみの知ったことじゃあない」
両手首を捕まれて後ろにひねられる。痛みに頭がのけぞり、そこを狙ってまた唇が重なり合った。どっちも堅く口を閉ざしていて、大人から見たら不格好なんだろうけれど。
これから先どんな顔でこいつに向き合えばいいか、周りに知られないだろうかなんて面倒なことは後回しにするぐらいには──





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