ディオの野望の傍らで


貧民街には多くの人種が集まる。白い肌の女、金と茶の入り交じった頭髪の少年、顔に入れ墨を入れた大男。しかし全員に共通してひとつ言えることは、彼らは皆毎日を生きるのに必死であるということだ。
今日も安っぽく炎を揺らすランタンをぶら下げた酒場には、出身は違えど境遇は同じ人々が一様に下卑た笑い声を響かせていた。


その一角、男達の喧騒を歯牙にもかけず黙々と肉にナイフを入れる少年が二人。

金髪に白い肌を持つ美少年は名をディオ・ブランドー。先日実の父親を亡くし天涯孤独となった彼は、葬儀を済ませたらある貴族の元へと引き取られるらしい。
相対するもう一人の名はナマエ。ばさばさした黒髪とイギリス人独特の皮肉じみた相貌を持つ。

軽い金属音を立ててフォークが置かれる。
『やったじゃないかディオ』
「それはどうも」
目も合わせず淡々と紡がれた最初の一言。

『手紙には何と?』
「そこまで大したことは書かれていなかった。自分がもうすぐ病気で死ぬということと、息子を宜しく頼むとだけ」
要点のみのそっけない返答には、関わり合いになりたくないという感情よりむしろ信頼の証さえ取って感じられた。もっとも両者にそんな感覚があるかどうか疑わしいのだが。
『そうか。くれぐれもドジは踏むなよ』
「この僕に向かってそんな甘っちょろい助言を寄越すとはなァ、ナマエ?」
『甘いというならお前の方だ、ディオ。いつもいつも最後に油断するのがお前の悪い癖さ』
そう言って黙々と肉を口に運ぶのを再開するナマエを、トントンと机を指で叩きながら待つ金髪の少年。

この男はいつもそうだ、相手のペースに自分を合わせない。自分の容姿や話術で巧みに人を操るディオも、この少年を完全に取り込むことはできなかった。
咀嚼が終わって喉が上下するのを見届けてから口を開く。

「言っておくが、たとえ油断はしても僕は失敗したことはないぜ。ダリオの殺害だって万事上手く行った」
『周りに聞こえるぞ。東洋の薬のある店を紹介してやったのは誰だ』
「みんな自分に夢中で聞いてないさ。そりゃ君だが……この話はよそう」
この話題を続ければ自分が不利になることに気づいたのか、話の中断を切り出す。妙な間が空き、沈黙に耐えられなくなったディオは自分の分の肉を食べ始めた。

と、皿に放り込まれた金貨が数枚。べちゃりとソースが付着したそれに顔をしかめ、その顔のままナマエを睨む。
『餞別』
「だからって皿の中に入れることはないだろう」
『嫌がらせだよ』
「それなら君も貴族を助ければ良いだろ、莫大な財産が手に入るぜ」
その言葉に鼻を鳴らしたナマエは、椅子にかけていたコートを手に取るとその場を立ち去っていった。


「………今のところの全財産、といったところか。アイツもとんだ甘ちゃんだな」
侮蔑したような声色で残されたディオは呟く。しかしその眼差しは楽しそうに歪められていた。
(良いだろう。君のその潔さに敬意を表して、僕は必ずジョースター家ののっとりを成功して見せる)
ソースのかかった金貨を一つ取り上げ、キスを一つ。彼なりの、無愛想な共犯者への誓いであった。








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