花京院の知り合い


『君が、花京院典明くん?俺隣の席の名前って言うんだ。宜しく』
「ああ、宜しく」
初めて彼に声をかけたとき、確かそんなようなやり取りをした覚えがある。


『一緒に弁当食べない?それか学食とか』
「すまない、僕は一人で食べたい気分なんだ」
最初の挨拶から何度か遊びや昼の誘いをしたことがあったが、彼はいつも断って一人で行動していた。そうしているうちに新しい友達が他にできたので、あまり彼のことに気をかけなくなったのだが。
半年が過ぎても一向に友達を作ろうとしない彼は、それでもわりかし平気そうだった。


何を話しかけてもよそよそしい、人付き合いのマニュアルのような返答をしていた彼と、何度か帰り道に出くわしたことがある。
彼は俺と途中まで同じ道を帰っていたのだと知り、そこまで他人というわけでもなかったので友人が部活で遅くなる日は花京院くんの後ろ姿を追っかけていって話しかけた。
最初は短くてあまり実感の篭っていない返答ばかりだったけれど、好きなフルーツの話やゲームの話になると少しだけ自分のことを喋ってくれた。あのコースのトンネルに設置された地雷はいくつあるのか、さくらんぼを食べるときの仕草が変わっているようだとか。
時折息と混じって笑い声が聞こえたような気がして顔を見ると、そこまで表情が緩んでいないので少しがっかりした。


一度、彼に何か特別な力があるんじゃあないかと思った時がある。例によって花京院くんと下校しているとき転んでしまったのだけれど、その時踏んづけてしまったものが、信じてもらえないかもしれないが、緑色に輝く触手のようなものだったのだ。
大丈夫かと上から声をかけられて見上げたとき、その触手が花京院くんの背後にしゅるっと消えていった。
「すまない、足を引っ掛けてしまったようだ」
『今のって………』
「…………どうした?」
『いや、見間違いだな。何でもない』




話をしたのはそれが最後だ。夏休みに入って彼はエジプトに旅行にいったとどこかで聞いた。2学期になっても彼を学校で見かけなくなって、そのまま。
転校したとも噂で聞いたけれど、彼は今ごろ何をしているのだろうか。






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